その他 (続)尾鷲の植物誌

■イヌビワ(クワ科)
今が旬のイチジク、漢字で無花果と書きますが、花が無くて実がなるわけではありません。花はまだ熟していない小さな実のように見えるもの(花嚢(かのう)と言われています)の中についていて、外からは見ることはできません。イヌビワもイチジクと同じ仲間で、直径1cmほどの花嚢をつける落葉性の低木です。木には雌雄(しゆう)があり、雄株(おかぶ)には雄花(おばな)、雌株(めかぶ)には雌花(めばな)が花嚢の中にたくさん詰まっています。道端や空き地の隅、林縁などに普通に見られますが、花が咲いても中に隠れているので訪れる虫はいません。一体誰が花粉を運んでいるのでしょうか?ここで登場するのが体長2mmほどのイヌビワコバチ、このハチは花嚢の先にある小さな穴から中に入り込み、産卵します。イヌビワの雄株の花嚢にはコバチの幼虫の餌が用意されていて、成虫になるまでこの中で育ちます。さらにイヌビワの雄株は、冬に葉を落としても枝先に花嚢をつけていて、幼虫に越冬場所も提供しています。
初夏から夏にかけ雄花が花粉をつける頃、羽化した雌雄のコバチが花嚢の中で交尾をし、雌バチが外に飛び出します。この時イヌビワの花粉がコバチの身体につき、雌株の花嚢まで運ばれ、実を結びます。このようにイヌビワとコバチの間には、それぞれの子孫を残すために共生の関係が成り立っています。世界にはイチジクの仲間は約900種知られていますが、そのどれもがそれぞれ専属のコバチを持っています。