- 発行日 :
- 自治体名 : 滋賀県守山市
- 広報紙名 : 広報もりやま 令和7年11月1日号
■好奇心を楽しんでみたら、ライフスタイルになった
お母さん、農家、科学者、食品加工 いろんな“やりたい”を実現する農クリエイター 今井 由莉(いまいゆり)さん(小島町)
小島町の今井由莉さんは、第2子を出産したばかりのお母さん。農業とサイエンスと発酵にハマっています。
ひきこもり支援や子育て支援の小さな農園を運営したり、市の出前講座の講師に登録して、子ども向けの科学教室をしたり、子育て世帯向けの発酵教室を開いたり、さまざまな活動をしています。今回は、「好き」を続けるクリエイターとして歩む今井さんを取材しました。
●サイエンス一筋から農の魅力に出会うまで
今井さんは、研究職だった父の影響で「救急車のサイレンの音が変わるのはどうして」「太陽が東から昇るのはどうして」など、子どもの頃から身の回りの不思議を知るのが大好きだったそうです。高校の時に理系の進路を考え、大学、大学院と農学部で学びました。就職先も企業の研究室でした。
サイエンス一筋だった今井さんですが、結婚してから、なかなか子どもを授からず不妊治療で辛い思いをしていた頃、援農ボランティアとして週末農業を始めて、改めて土に直接ふれる農業の魅力を知りました。大学でも仕事でも実験室にこもっていたので、自然の中で体を動かすことで自分が救われたような気がしたといいます。
「野菜を自分で育ててみたい」本気で農業に興味が湧き、週末は農業学校に通ったそうです。
今井さんにとって農業の魅力は、担い手になることではありませんでした。自然の中で体を動かすことの開放感と癒やし、自分の手で育てた野菜のおいしさ、研究室にこもっていた時の「やりがいの中に潜む閉塞(へいそく)感」や不妊治療の辛さから自分が救われた農業の魅力を、たくさんの人に知ってほしいと考えたそうです。そこで、子どもたちが楽しめる野菜カードやゲームを開発しました。この時に「農クリエイター」という言葉を使いはじめたそうです。
●野菜づくりから健康を わが子の誕生で食育に興味
今井さんは現在、2ヵ所の畑で「ひきこもりの人と一緒に野菜を作る畑」(守山市食のまちづくりプロジェクト)と「親子で野菜づくりを楽しむ畑」を運営しています。
心の栄養になる「農業の魅力」を広めたいと思っていましたが、子どもを授かってからは、家族が食べる安全でおいしい有機野菜づくりと食育への興味が急上昇。健康的でおいしくて化学の要素もある発酵食品に引かれて勉強し、同じ子育て中のママ向けに発酵教室を開催するようになりました。
もちろん、大好きだったサイエンスの楽しさを伝えたい気持ちも継続しています。教室や実験の準備は大変ですが、目の前の不思議を解き明かす実験に、目をキラキラさせている子どもたちを見るとうれしくなるといいます。大人には思いつかない発想力に驚かされることや、感心させられることも多いそうです。今井さんは「子ども向けの活動は、楽しくて刺激をもらえます。でも私がやりたいことの多くは、わが子はもちろん子どもたちの未来の『~なったらいいな』が原動力です。例えば、AIやロボットにできないことをしてほしいな。自分で考えて行動できるようになったらいいな。将来理系に進む子もいるといいな。などいろいろと思いながら楽しんでいます」と話していました。
●夢に挑戦するママの姿 子どもたちに見せたい
この秋、第2子を出産したばかりの今井さん。
2歳のお姉ちゃんと赤ちゃんの子育てに追われながらも、将来に大きな夢を描いています。それは、畑で収穫した落花生を使って、農業と発酵を組み合わせた子どもも安心して食べられるピーナッツバターの開発。子育てが落ち着いたら、レシピも材料も自家製で、自分の加工所を作りたいと考えています。
臨月を前に取材を受けてくれた今井さんは、「もともと研究職のせいか、レシピの開発は楽しいです。原料の落花生を栽培する農園は、ひきこもりなど困難を抱える人の就労先になれたらいいなと思っています。欲張りなくらいに『やりたいこと』がありますが、今の活動を楽しみながら少しずつ夢に近づいていきたい。わが子の笑顔、活動に集まってくる人たちの笑顔、そして応援してくれる家族のためにも、農と食を守れるクリエイターであり続けたいです」と満面の笑顔で語っていました。
