くらし 【特集】戦後80年を迎えて 未来へ想いをつなぐ

■戦争の悲惨さと平和の尊さ
昭和20年8月15日、第二次世界大戦が終結しました。未曽有の惨禍をもたらしたこの戦争から早くも80年の歳月が流れ、私たちは今の平和な時代を生きています。
本市からも多くの若者が戦地に駆り出され、約3000人が戦地で命を落としました。また、市内には八日市飛行場や軍需工場があり、そこをめがけてグラマン(艦載機)が来襲し、幼い子どもを含む市民が亡くなりました。
今回は、戦争の悲惨さと平和の尊さを改めて認識し、未来へと語り継ぐために、今も残る数々の戦争の痕跡や記憶に触れながら、改めて平和について考えます。

■今も残る痕跡
▽布引掩体群
掩体とは、戦争末期の昭和19年から終戦までに全国で建設された飛行機や物資を守るための軍事用格納庫です。
布引丘陵の裾部には、約1.8キロメートルの範囲に飛行機用の掩体17基、小型の掩体3基以上、土塁状の遺構1基、誘導路などが見つかっています。
飛行機用の掩体は、建設に関わった人の証言では、鉄筋コンクリート造ドーム型、木造アーチ梁ドーム型、木造格納庫型、屋根なし開放型の4種類の掩体があったとされます。現存する鉄筋コンクリート造ドーム型の掩体の大きさは、最大幅約36メートル、奥行約22メートルで、内部にはコンクリートを打設する際に盛られたと考えられる土が残っています。
現在、全国におよそ130基の飛行機用の掩体が知られており、近畿では大阪府八尾市内1基と本市にのみ残っています。
※私有地のため、許可なく立ち入ることはできません。

▽八日市飛行場と冲原神社
八日市飛行場は、大正3年に荻田常三郎が沖野ケ原で飛行したことをきっかけに日本初の民間飛行場として開設されました。その後、旧日本陸軍の飛行場になりました。
大正14年には、出兵する兵士が戦地に向かう前に参拝されたとされる衛戍神社(昭和2年に冲原神社に改称)が建立、昭和5年に新八日市駅から飛行場駅までの湖南鉄道が開業、昭和14年に長谷野の爆撃演習場が建設、昭和16年に陸軍病院が設置されるなど、軍都としての歴史があります。

■戦争を語る
「あの日のことは今も忘れることはできない。
亡くなられた多くの人々の無念の思いを語り継いでいきたい」

戦争末期となった昭和20年7月25日には、本市の上空にもアメリカ軍が来襲し、空中戦が繰り広げられ、市民を不安と恐怖に陥れました。
東近江市遺族会の副会長として活動している久田政男さん(87歳・市原野町)は、父親が戦争に出征されていた戦争遺児の一人です。取材に際して当時の出来事や思いについて、いくつもの資料を並べながら語ってくれました。

昭和20年7月30日、戦争が終わる2週間前の悲しい出来事は、80年たっても忘れることはできません。私の地域まで空襲を受け、米軍のグラマン(艦載機)が飛来し、機銃掃射(※)を受けました。私の同級生で仲の良かった兄弟は、ラジオ体操の帰りに、グラマンの奇襲を受け両親の目の前で亡くなりました。
機銃掃射のバリバリバリっというものすごい音がして、自分もいつグラマンの奇襲を受けるかと思うと恐ろしかったです。
※機銃掃射とは、機関銃の銃口を動かし、敵をなぎ払うように射撃すること。

私の父は戦地から手紙をくれました。郷里を思い、いつも家族や農業の心配をしてくれていました。父は宮古島(沖縄県)から昭和20年12月に復員しましたが、「グラマンが奇襲する。恐ろしい」と言いながら母・祖母の看病もむなしく、4カ月足らずで父は亡くなりました。戦時中に父が遺した手記や手紙などは今も大切に保管しています。同級生の兄弟と父の死は決して忘れることはできません。

▽久田さんから後世へ一言
戦争を知らない国民が9割といわれており、遺族会の会員は減少し存続が難しくなってきています。今年は昭和100年、戦後80年の節目の年を迎えます。日本の平和と繁栄は尊い命を捧げられた先人のおかげということを絶対に忘れてはいけません。先人が築き上げてきたものや地域・人とのつながりを大切にし、これからの人生にはしんどいこともたくさん起こるだろうけれど、根よう(根気よく)乗り越えてほしいと思います。

■平和を語り継ぐ
滋賀県遺族会では、今後を担う若い世代に呼びかけて若者が戦争の歴史に直接触れ、戦争の悲惨さと平和の尊さを深く認識することを目的に次世代戦跡訪問研修事業を実施しています。

▽研修事業に参加して感じたこと
次世代戦跡訪問では、鹿児島県の知覧特攻平和会館や通信基地の跡、長崎県の平和公園などに行きました。もともと教科書の中でしか戦争を知らなかったけれど、実際の戦跡に触れ、当時の状況を想像することで、「戦争は繰り返してはいけない」と強く思うようになりました。
自分たちの後の世代にも、実際に戦跡に触れて「戦争は怖いな」と感じてほしいし、多くの人に触れてもらうためにも残していくべきだと思いました。たくさんの人の犠牲があったから今の平和があるということをいろんな人に伝えていきたいです。

■東近江市戦没者追悼式
先の大戦において戦禍に倒れた戦没者に追悼の誠を捧げ、戦争の教訓を風化させることなく、平和の尊さを次世代に継承する戦没者追悼式を開催します。式では、能登川中学校の生徒による発表や、あかね児童合唱団による合唱、戦後80年特別公演として舞楽の演奏を予定しています。ぜひ来場してください。
日時:8月2日(土)10:00~11:30(9:40受付開始)
場所:愛東コミュニティセンター
内容:献花、次世代発表、戦後80年特別公演など

■未来を担う世代に継承していくために
終戦から80年を迎え、この長い歳月の経過とともに、戦争がもたらした悲惨な記憶が薄れつつあります。しかし世界では、北朝鮮のミサイルの脅威をはじめ、ロシアとウクライナの戦争、緊迫化する中東情勢など、現在も幼い子どもを含む多くの人の命が犠牲になり、人々の平穏な日々は奪われ続けています。私たちは、先の大戦から学んだ多くの教訓や平和の尊さを未来を担う世代へと継承していくことが、今を生きる私たちに課せられた重要な使命です。
この夏、実際に戦跡に触れ、今一度先人たちの歩みに思いを馳せて、次の世代にすばらしい未来を残していけるよう、平和について考えてみてください。

問合せ:福祉政策課
【IP電話】050-5801-0945【FAX】0748-24-5693

問合せ:埋蔵文化財センター
【IP電話】050-5801-5011【FAX】050-5801-5816