文化 《特集1》秋祭の三重奏(3)

■瑞饋神輿(ずいきみこし)
~30種類の野菜・穀物で飾り付け~
〔今年は巡行の年〕
10月に田辺地域にある棚倉孫(たなくらひこ)神社の秋祭で2年に一度、繰り出される瑞饋神輿。一説によると、明治期に、北野天満宮の瑞饋神輿を手本に制作されたといわれています。昭和5年に一度途絶えましたが、昭和51年に47年ぶりに復元しました。昭和53年に瑞饋神輿保存会が結成されると、同年、田辺町(現京田辺市)無形民俗文化財第2号に指定されました。
神輿は約30種類ほどの野菜や穀物、乾物で飾り付けられ、五穀豊穣を祈願します。

日時:10/12(日)午後1時から巡行
場所:棚倉孫神社
公共交通機関で来場してください。

◆大人神輿と子ども神輿
棚倉孫神社の境内に並ぶ大小2基の瑞饋神輿。メインの「大人神輿」と、少し小ぶりの「子ども神輿」は、毎年交互に作られます。

◆お稚児(ちご)さん
華やかな衣装を身に着けたお稚児さん。巡行の直前に、神主よりおはらいを受けます。

◆巡行の流れ
1.鳥居くぐり〔難所〕…鳥居の下をくぐるため、担ぎ棒を地面すれすれまで下げます。屋根飾りの鳳ほうおう凰を傷付けないように、担ぎ手は腰を落として慎重に歩みを進めます。
2.上り坂〔難所〕…天井川の天津神川を越えるため、傾斜のきつい境内の坂を上ります。氏子ら約20人が力を込めます。
3.下り坂〔難所〕…橋を渡り川を越えたら、今度は急勾配の坂を下ります。
4.太鼓の音を響かせながら区内を巡行…神輿と子どもたちを乗せたトラックが、太鼓の音を響かせながら田辺区内を巡行します。巡行後、神輿は神社で奉納された後、境内で一年間展示されます。

◆細かい作業はまさに職人!瑞饋神輿ができるまで
「千里の道も一歩からやで」
制作風景(本紙の写真参照)。朝9時から夕方4時まで、黙々と作業の手を進める制作者の皆さん
「ミリ単位の調整や」
穀物類は、ピンセットやつまようじを使って一粒ずつ丁寧に貼り付けます。
「目と肩がえらい(涙)」
「小さすぎて指でつかめへん(涙)」
傷んだインゲンマメを彫刻刀で外して、新しい豆に入れ替えます。
「ゴールが見えてきたで!」
10月上旬に関係者総出で神輿を組み立て、ズイキで屋根を覆います。巡行当日の朝、軒先を切り落として、きれいに仕上げます。
~ついに完成~
「伝統の紡ぎ手として誇りに感じるわ。感無量。」
巡行の4日前に、鮮度落ちが早い野菜類を一気に飾り付けます。

◇どんな農産物が使われているの?
ズイキ・トウガラシ・ナス・キンカン・赤ナス(野菜)、米・小豆・大豆・麦・インゲンマメ・ナタマメ(穀物)、ケイトウ・千日紅(花)など約30種類。ほとんどを総代・氏子など関係者で生産しています。

◇ズイキとは?
サトイモの葉柄(ようへい)のことで、植物の葉と茎をつなぐ柄状の部分のことをいいます。

◆大正・昭和にタイムスリップ
※写真は本紙をご覧ください。
110年前(大正4年)…掛け軸に描かれた瑞饋神輿
41年前(昭和59年)…区内を練り歩く瑞饋神輿

◆〔Interview〕伝統の守り人 瑞饋神輿保存会 制作者の一員 小坂隆利さん(79)
昔の職場仲間と月1回、舞鶴で舟釣りを楽しんでいます。以前、80cmの鯛を釣り上げた時の感触を今でもはっきり覚えています。

~至近距離で細部のこだわりを見て~
私が保存会の会計担当から制作担当に替わってはや10年になります。現在、制作者は6人で、平均年齢は70歳半ばとかなり高齢化しています。

◇10年ぶりの大仕事
制作は、神輿をおはらいして古い装飾を取り外すことから始めます。9月上旬に神輿をパーツごとに解体した後、一週間かけて穀物類を貼り付けていきます。壁面にすき間なく敷き詰めているインゲンマメは、日持ちが良いのでこれまで補修でしのいできましたが、虫食いや劣化が進んできたので、今回、10年ぶりに貼り替えます。

◇天候に左右される苦労も
指定文化財なので、できるだけ形状を変えることなく伝統を守っていきたいのですが、自然の物を使用しているため、猛暑や渇水など天候の影響でイレギュラーな対応を迫られることも少なくありません。前回、屋根を覆うズイキの生育が悪く葉柄(ようへい)が短かったので、根元のサトイモの一部を含めて使用しました。また、飾りとなる野菜が不作で手配できない時は、やむを得ず代わりの農作物を探します。

◇技術の継承のために
装飾には設計図や手順書がなく、前回の写真や記憶を頼りに制作しています。また、技術や知識を継承するため、これまで子ども神輿は毎年制作していましたが、高齢化する担当者の負担を考え、前回から隔年制作に変更しました。ただ、大人と子ども神輿を交互に制作することで、空白期間が生まれないように配慮しています。

◇ぜひ、細部まで見て
市を代表する文化財を作っていることにやりがいと誇りを感じています。体が動く限りは制作を続けるとともに、後継者の育成にも力を入れ、伝統を後世まで残すことに貢献したいです。神輿は細部までこだわっているので、ぜひ、顔を近づけて至近距離で見てください。感動していただけたら制作冥利に尽きます。