くらし 区制100周年記念みなとの100年、みんなの物語(1)

~これまでもこれからもこの地域(まち)と~

港区には、地域ごとに紡がれてきたまちの物語があります。区制100周年を機に、その過去と今を語り合い、これからの未来をともに思い描くインタビュー企画をお届けします。

■田中地域
田中地域は、中央大通北側の田中エリア、中央大通とみなと通に挟まれた夕凪エリアで構成。田中エリアは、低層住宅を中心とする住居エリア、夕凪エリアは、かつて商業地としてにぎわいましたが、近年は商業施設の減少が目立ちます。港区の地名は新田開発を行った町人に由来するものが多く、田中地域は田中又兵衛にちなんで名づけられたと言われています。今回は、その田中地域で防犯・防災活動に携わっている穴吹さんにお話を伺いました。

◇災害の経験を教訓に、進化する地域防災
田中小学校のPTA会長をきっかけに、地域と関わるようになった穴吹さん。2015(平成27)年から昨年まで、地域防災リーダーの隊長を務めてきました。地域防災リーダーは阪神淡路大震災を契機に組織化されたものですが、穴吹さんの就任当時は東日本大震災を受けて、防災のあり方が見直されていた時期でした。避難所の開設訓練が本格的に始まり、津波を想定した垂直避難の必要性も、この頃から広く認識されるようになったといいます。
2018(平成30)年の大阪北部地震の後は、防災学習会への参加者が一時的に増加。2020(令和2)年以降はコロナ禍により、受付での検温や避難者の振り分けなど、避難所の運営にも対応が求められました。実際の災害や社会状況によって、変化してきた地域防災。穴吹さんは「建前の訓練ではなく、本当に災害が起きたときに、誰がどう動くかをより現実的に考える時期に来ているのでは」と考えています。

◇楽しく伝える防災、子どもたちにも関心を
その中で穴吹さんは、「いかに多くの人に防災意識を持ってもらうか」に心を砕いてきました。防災学習会の内容を見直し、防災リーダーによる寸劇を企画。津波が来た時に何を持ってどこへ逃げるかなどを、物語に盛り込んで上演しました。「5~10分の簡単なものですが、ちょっとでも関心を持ってもらえたら、と考えました。それに、僕ら防災リーダーが前向きに取り組む姿を見せることで、見る人の心にも届くのではないかと思います」。この寸劇は、区の防災アドバイザーの監修を受けながら、現在も継続されています。
今年6月には田中小学校体育館を会場に、子どもたちの防災意識を高めるためのクイズ形式の防災学習会を開催。楽しみながら学べる工夫が地域に根付いてきています。

◇未来に受け継ぎたい、つながりの力
田中地域は一戸建て住宅が多く、比較的子育て世代も多い地域。しかし、近年建てられるマンションの多くは単身者向けのワンルームで、ファミリー世代は減少傾向にあります。民泊の増加もあり、街の風景は少しずつ変わりつつあるのが現状です。
それでも、「みんな団結力が強くて、他の地域や区役所の方から、“田中はまとまっていますね”とよく言われるんですよ」と、穴吹さんは笑顔で語ります。若い世代に地域活動を引き継ぎたいという思いはありつつも、「現役世代は忙しいから」と理解もにじませます。それでも子ども会の若いお父さんたちが関わってくれることもあり、希望も感じているようです。自身も現役で働いていた頃から地域活動に携わってきた穴吹さんは、「日常的にコミュニケーションがあって、つながりのあるまち。私も活動を通じて、地域に居場所ができたと感じています」と振り返ります。

◇避難所機能を備えた地域拠点が理想
今年、港区は区制100周年を迎えました。穴吹さんは区制70周年のときに田中小学校のPTA会長を務めており、地域でおみこしを作って御堂筋パレードに出演したそうです。
それから30年、この節目の年にこれからの地域のあり方について伺うと「住む人が増えることで地域が活性化すると思うので、それが叶うような施設ができたらいいですね」と話します。そして、「できれば、避難所機能も備えた施設があったら一番いい。いざという時に避難できて、ふだんは地域のコミュニティの場にもなるような、そんな場所があるといいですね」と、地域の未来に向けた希望を語ってくれました。

◇穴吹正信さん
大阪市住之江区出身。結婚を機に妻の実家がある港区に転居。田中小学校のPTA会長をはじめ、地域振興会の広報や地域防災リーダーなどを歴任。保護司として18年、少年補導員として22年にわたって活動し、現役時代から仕事と地域活動を両立しながら長年にわたり地域に貢献している。