- 発行日 :
- 自治体名 : 兵庫県養父市
- 広報紙名 : 市広報やぶ 2024年11月号(第248号)
■3.安全なくらし求めて
復旧事業を進めるために、台風襲来の翌年、平成17年1月に宿南地域の区長などで構成する「宿南地区水害対策促進期成同盟会」が発足。災害に強い地域づくり、安全なくらしの実現に向けての歩みが始まりました。
▽復旧に決め手なく
田中 靖さん(川東)
「災害の翌年から川東区長、宿南地区区長会の副会長に。復旧は、どこから手を付ければいいのかわかりませんでした。行政が担う部分もありますが、地元でできることはしなければいけませんから。樋門の設置や三谷川の改修などの復旧が前に進むように、土地の提供や費用について、地区の人に説明したり、協力してもらったりするのが本当に大変でしたね。それでも、地権者の理解がないと前に進まない。どう説明して、どう理解を得るのか、ずいぶんと悩みました。大げさではなく、寿命が縮まりましたね。
復旧に決め手はありません。これからの災害を防ぐために、できることをすべてテーブルの上にあげていきました。
地域住民がひとつにならないと、災害復旧はできません。普段から意思疎通ができる地域でなければと強く思いましたね。
ひととおり災害復旧は済んだと考えていますが、今の気候状況を見ると、これで大丈夫とは言えないのではないかと思います。
台風23号の経験は、私の人生のひとつのポイント、ものすごく大きな経験です。
各地で起きる災害の報道を目にするたびに『宿南はこうだった』『災害にあった地域はどんな地域なのか』ということばかり考えます。宿南のように生活できる状態に戻ってほしいと願うばかりです」
■4.「次」への備え
青山川樋門が完成し、市が所管していた宿南地区水害対策促進期成同盟会の事務局は、宿南地区自治協議会に移管されました。同会に、今後の災害への備えについて尋ねました。
▽さまざまな「もしも」想定
西田 教之さん(同盟会会長)
「台風23号に代表されるように、宿南は水害が多い地域ですが、青山川樋門が完成し、三谷川の拡張工事が完了した後、大きな水害は発生していません。対策はできたという声もありましたが、今後の水害に備え、会を継続することに。三谷川の土砂除去などについて、県に要望するなどの活動をしています。
台風23号のことは、経験した人たちが、自分の子や孫に話をするのではないかと思いますし、水害の多い地域であるということは、子どもたちに伝えていく必要があると感じています。私たちも機会があれば話をしたいですね。
水害は水だけでなく、土砂も怖い。『もしも家がつぶれたら必要なものは』『もしも寒い時期なら』など、さまざまな想定で、できる準備を日ごろから少しずつしておこう、と地域の人に呼びかけています」
▽助け合いの意識、大切に
維田 浩之さん(同盟会理事)
「水が引いた後、消防団員として、住民の安否確認などを行いました。生まれも育ちも大阪で、こちらに住むことになってからすぐに消防団に入団。最初は面倒と感じることもありましたが、地域の人とのつながりができますし、みんなで助け合うという意識を持つのは大切なこと。若い人には、積極的に関わってほしい組織ですね。
青山川樋門ができて、円山川からの逆流は緩和されるようになりましたが、近年の異常な雨の降り方で、三谷川、青山川の水が円山川に流れなくなると、どうなるか。これからの課題です。家ごと流されるようなことはないと思いますが、山に面して住んでいる人は、土砂崩れの可能性もゼロではありません。浸水してからでは避難できないので、早めに避難するという心構えが大切だと思います」
■伝える、つなぐ、守る。
近年、災害は各地で頻繁に発生し、その激しさを増しています。
「天災は忘れた頃にやってくる」
次の災害が来る「そのとき」は、忘れた頃とは限りません。来年、1カ月後、ひょっとすると明日かもしれません。
いざというとき、最後にあなたの命を守るのは、あなた自身です。それぞれが自分の身を守る行動、方法を普段から考え、備えておく必要があります。
今回紹介した宿南の水害は、宿南のみなさんの経験を後世に伝えていくために、宿南地区自治協議会にご協力いただき、取材を重ねました。
万が一災害が起きても、過去の災害の脅威、記憶や事前の備えの重要性を知り、伝え、つないでいくことが、明日の私たち、そして、未来の人たちを守ることにつながるのではないでしょうか。
まずは「あのとき」のこと、身近な人と話してみませんか。