くらし 特集 うなぎの棲む川

◆松野のウナギ
今年の土用の丑の日は、7月19日(土)に加えて今週末の7月31日(木)にも巡ってきます。かつて松野町を流れる広見川や目黒川では、50年ほど前までウナギが豊富に生息しており、子どもたちが「じごく」と呼ばれる仕掛けでウナギを捕まえ、ウナギ屋に卸して小遣いにする光景が見られました。
当時は多くのウナギ屋が軒を連ね、観光客で賑わっていましたが、現在ではほとんど姿を消し、ウナギも絶滅危惧種となっています。かつて梅雨の時期には、稚魚である針ウナギが列をなって堰を登る「ウナギばしら」が見られるなど、ウナギ資源が非常に豊かでした。
広見川のウナギは、魚体が小ぶりで頭が小さく腹が黄色いのが特徴で、食べると脂が適度にのっていて、身が締まっていると評判です。
特に虹の森公園の近くで獲れるものは、川底の小石をくぐってスリムな姿になっていて、大門ウナギと呼ばれ珍重されていました。
今回は、そんなウナギの今についてご紹介します。

◆ウナギの生態と秘密
ウナギは、そのユニークな生態で私たちを驚かせます。なんと、1万トンの水の中にたった1グラムのエサの匂いがあっても嗅ぎ分けられるほど、ずば抜けて優れた嗅覚を持っています。また、ウナギが焼いて食べられることが多いのは、その血液に理由があります。ウナギの血液には「イクチオヘモトキシン」という魚類血清毒が含まれており、そのままでは食べることができません。この毒素は熱を加えることで無毒化するため、安全に美味しくいただくために、焼いて調理されます。また、皆さんが普段食べている養殖ウナギの9割以上はオスです。ウナギは、食べるものによって性別が変化するという不思議な生態を持っています。養殖では、効率よく成長させるために特定の餌を与えるため、結果としてオスが多くなる傾向にあります。

◆ウナギ捕獲のルール
広見川や目黒川でウナギを捕獲する際には、2つの大切なルールがあります。
・体長25cm以下のウナギは放流する
・捕獲できる期間は4月1日から9月末まで
これらのルールは、ウナギの資源を保護し、持続可能な利用を目指しています。特に、ウナギは秋になると産卵のために海へ向かいます。小さなウナギを守り、産卵期を避けることで、ウナギが次の世代へと命をつないでいけるようにしています。

◆ニホンウナギの現状
皆さんは、養殖があるから大丈夫と思うかもしれませんが、現在の養殖ウナギのほとんどは、天然のシラスウナギ(ウナギの稚魚)を捕獲して育てています。そのため、天然のシラスウナギが減ってしまうと、養殖も減少していきます。
このような状況を改善するため、近年では、完全養殖の研究・実用化が進められています。完全養殖とは、ウナギを卵から孵化させ、育てるという全てのライフサイクルを人口的に行う技術です。
ウナギの養殖で、最大の課題は受精卵からシラスウナギまでの過程です。
ウナギはグアム近くのマリアナ海域で産卵し、そこからフィリピン、台湾を経て、黒潮に乗って日本に帰ってきます。そのため、完全養殖では、適切な餌、水質、水温管理が求められ、特に、自然の餌の再現が課題でした。しかし、サメの卵を与えたところ、順調に育ちましたが、コストが高額となるため、現時点ではまだ完全養殖の実用化が進んでいません。

◆ウナギの保護活動
広見川・目黒川でのウナギ保護活動は、漁協を中心にウナギの放流を行うなど、ウナギの数を増やすための保護活動が実践されています。また、町では四万十川流域全体でのウナギを守る活動にも取り組んでいます。このような地道な活動が、ウナギの未来を守る上で続けられています。
今年の土用の丑の日にウナギを食べた人も、まだ食べていない人も、この機会にウナギを取り巻く現状や、身近な川で行われている保護活動に目を向けてみてください。
今、日本で食べられているウナギのうち、天然ウナギの割合はわずか1%未満です。今や天然ウナギは、幻の高級食材とされています。
この貴重な天然ウナギの食文化を守り伝えるためには、松野の美しい自然環境を守っていくことが大切です。
ウナギのいる環境はとても恵まれていますが、今はウナギが減少しています。地域の皆さんが川の水をきれいにすることを意識していくだけでも、川の状態は良くなっていきます。昔のころのように、誰もがウナギ漁を楽しめる環境を、私たちみんなで目指していきましょう。

※今回の記事はおさかな館の恩田館長に取材しました。もっと詳しく知りたい人は、気軽におさかな館に訪れてみてください。