健康 【Close up】食と向き合う 食事は無言の愛情表現(1)

入学・入園、就職、異動・転勤等、4月は大きく生活環境が変わる月です。自身の異動や転勤に加え、子どもの新学期の準備に追われ、目まぐるしく日々が過ぎていく方も多いのではないでしょうか。学校への提出書類の作成やノートや鉛筆等、ありとあらゆる持ち物に名前を書かなければなりません。準備だけでも大変です。そして、訪れる新たな環境に期待もあれば、不安や心配もあります。そんなこの時期、忙しさに追われ、つい食事が疎かになってしまうということも珍しくありません。さらに、4月は寒暖差も激しく、新しい環境に適応するために心身ともにストレスを抱えがちで、体調を崩しやすい季節です。新たな季節を健康で明るく過ごすためには、しっかり食事を摂ることが重要です。今回のクローズアップでは、「食」について特集します。

今元小学校の近くで、麹(こうじ)を使用した料理や食品を提供している内野加奈美さん(以下:かなみさん)。以前は、調理器具の販売員をしていたそうです。営業先で目の当たりにしたのは、働く母親たちの食生活。デスク周りには、カップラーメンの山。多忙な日々を送る、彼女たちのお昼ご飯です。仕事が終わり、子どもを迎えに行き、そこから夜ご飯の支度。少し業務が遅くなれば、スーパーやコンビニでお弁当を買って帰ることも多いと話していたそうです。「手作りがいいとは分かっている。でも、忙しい。生活に時間の余裕がない。分かってはいるが、できない自分が嫌になる」。そう言って、気を病んでしまう母親をかなみさんは何人も見てきました。
悩んでいる母親やその子どもたちを助けたいという気持ちから、かなみさんは料理教室を始めました。「週に1回でもいい!」と、簡単・時短レシピで課題に立ち向かいました。料理教室では、普段買ってきたお弁当やお惣菜を食べている子どもたちが、野菜を切る音や食材のにおいに引き寄せられ、集まって来ていたと言います。「人間の本能を感じました。子どもたちは、手作りの音や匂いを感じることで、安心感を覚えていたのではないかと思います。」と、当時を振り返りました。
食事で摂る栄養素が体へ様々な影響をもたらすことは当然ですが、心に与える影響も大きいと言われています。「食育」と聞くと、少し難しく感じるかもしれませんが、食事を作る親の姿を目にすることや、その食事を一緒に食べる「共食」の機会が心を育てます。「食事づくりは無言の愛情表現だと思っています。負担を感じることなく、多くの家庭でこの愛情表現を行ってほしい。そのために、誰でも楽に覚えることができ、簡単に調理できるメニューを皆さんにお伝えしています。」と、食や子育てへの想いもお話ししてくれました。

かなみさんが影響を受けたのは、大分県佐伯市で代々続く麹店の後継ぎである浅利妙峰(あさりみょうほう)さん。塩麹はまさに自身が求めていた、忙しい母親たちの救世主であると感じ、塩麹で作る簡単レシピを展開。今も飲食店の傍ら、地域の女性学級やサークルで料理教室や味噌づくり教室をボランティアで行っています。塩麹で漬け込んだお肉を焼くと柔らかくなるなどよく耳にしますが、かなみさんのレシピは漬け込みません。
「その日の体調や気分によって、身体が求めている味は変わります。疲れていてあっさりした味が食べたいのに、漬け込んでしまうと調整ができないですよね。その日の家族の体調に合わせて調整することもまた、愛情表現ではないでしょうか。簡単、手軽、そして毎日麹を摂ることで、免疫力を高めて元気になってほしいと考えています」。
かなみさんのレシピは、調味料は1つだけ。食材と塩麹のみ。また、分量は何でも「1対1対1」にするなど、誰でもすぐに覚えられ、実践できるように考えられています。おしゃれなインスタ映えするようなお料理を教えたいわけではありません。みんなの健康や食事から得られる心の健康を願ってのレシピです。
「一汁三菜とよく言いますが、お味噌汁から始めて、一汁一菜でも十分だと考えています。まずは作ること。そこから子育て・自分育てに繋がります」。このように明るい笑顔でお話ししてくれたかなみさんの「簡単レシピ」を特集の終わりに掲載しています。ぜひ、みなさんチャレンジしてみてください。