- 発行日 :
- 自治体名 : 福岡県行橋市
- 広報紙名 : 広報ゆくはし 令和7年4月号
市内にある内田産婦人科医院の助産師として、これまで長年にわたり、母子やトラブルを抱えて産院に駆け込む未成年の子どもたちに向き合い続けてきた内田美智子さん。『いのちをいただく』、『ここ―食卓から始まる生教育』『お母さんは命がけであなたを産みました』など多くの著書を手がけ、全国各地で命の尊さや食の大切さを伝えている内田さんにもお話を伺いました。
広報:まずは、食事で大切だと思うことを教えてください。
出産は命がけです。うちは産院なので、出産後のママの身体に負担が少ないように、低カロリーで動物性脂質の少ない和食中心の食事を勧めています。また、たくさんの子どもたちと向き合う中、食べるものはもちろんですが、「一緒に食卓を囲む」ことの大切さを痛感し、食事の場でとても重要なことだと考えています。
広報:つい忙しさを理由に、私もおかずを買ったり、調理が楽な肉料理を選びがちです。
24時間営業のコンビニやスーパーが立ち並ぶ時代です。お弁当やお惣菜を購入することは簡単ですが、食材の産地や添加物のことを知ることや忙しさの中でも、買ってきたものにひと手間かけることは大切ですね。最近では、オイシックスやグリーンコープなどで、2~3人分の食材が入ったキットが売られています。作り方も添えられています。食材も調味料も必要な分だけ入っています。作り方どおりにやっていけば、誰でも簡単に食材のロスなく一食完成です。作り方も覚えるので、忙しい方にはこのようなものもおすすめです。
広報:「楽な方法」も選択の仕方で全く違いますね。
世の中が便利になった分、楽な方法を人は選んでしまいます。その中で、お産はひとつのターニングポイントだと思っています。カップラーメンばかりだった女性も、「赤ちゃんのために」と食生活を見直すきっかけになります。この大切な時期に、安全な食べ方を教えたいと思い、食事指導には重点を置いています。人は見たこと、聞いたこと、経験したこと、学習したことしかできません。子どもは育てたように育ちます。進学や就職でいきなり社会に放り出されても、何もできません。普段から、親や祖父母が食事を作るのを見ることや、子どもは手伝うことで学んでいきます。経験や習慣は次の世代に繋がります。
広報:次の世代へ繋がるのですね。
はい、そうですね。私は問題を抱える思春期の子どもたちと十年以上関わり、「食」の大切さにたどり着きました。食卓の豊かさが、子どもたちを育み、良い連鎖を生みます。
広報:最後に、この春から新生活を迎える方々やそのご家族へアドバイスをお願いします。
これからは、自分の身体を守るのは、自分しかいません。食が心も身体も育てます。お金を出せばすぐに何でも買える便利な世の中ですが、安心安全なものを自分の手で選んでください。そして真贋を見極める力を養ってください。学生でも社会人でも、お金が無尽蔵にあるわけではないので、節約には自炊が一番です。節約しながら、心にも身体にも優しいご飯を作って、健康な身体を守れるなんて「おいしい」ではないですか?(笑)
ご家族へ、「そんなこと(家事手伝い)する時間があったら勉強しなさい」というご家庭もあるかと思います。子どもは育ちの中で、いろんなことを記憶していきますが、食卓での食べ物の記憶は一日3食、一年で1,000食になります。「食べたいもの、作ってみたいものがあったら電話してきて!お米も野菜も送るし、作り方もLINEで教えられるよ」と、子どもたちが食を通じて一人で生きていく力を養うチャンスを見守り、そして寄り添う気持ちを大切にしてください。
内田美智子 ―MICHIKO UCHIDA
1957年、大分県竹田市生まれ。
国立小倉病院附属看護助産学校助産師科卒業。1988年、産婦人科医の夫と内田産婦人科医院を市内に開業。「生」「性」「いのち」「食」をテーマに全国で講演活動を展開。