くらし (特集)豊かな里山を守る×脊振ジビエを知る(1)

家庭菜園の野菜を荒らされたり、実り始めた稲を食べられたり…。イノシシやアライグマによる被害に困った経験のある人も多いのではないでしょうか。そんな被害を少しでも減らそうと、地域では日々奮闘している人たちがいます。
この特集では、里山の自然と暮らしを守る取り組みや、町の特産品として人気が高まっている「脊振ジビエ」の魅力をご紹介します。

(Q1)脊振山系鳥獣処理加工センターが建設された目的は?
1つ目は、イノシシなどの有害鳥獣による農作物への被害が深刻化していたため、駆除したイノシシを山林に埋葬する労力軽減を目的としました。
2つ目は、捕獲したイノシシを副産物として利用することで、住民・狩猟者・町が一体となって有害鳥獣被害対策に取り組む体制を目指して平成30年3月に建設されました。
施設は、さとやま交流館の北側(吉野ヶ里町松隈10番地2)にあります。

(Q2)脊振山系鳥獣処理加工センターを運営しているのは誰?
一般社団法人脊振山系鳥獣処理加工センターです。吉野ヶ里町および神埼市の猟友会で組織した一般社団法人になります。猟友会の約60人が会員で、そのうちの6人が役員となってセンターを運営しています。

(Q3)脊振山系鳥獣処理加工センターはどんな役割を担っていますか?
当センターでは、有害鳥獣として駆除されたイノシシなどを、採寸、写真撮影を行い、記録します。イノシシの場合、検査を行い、廃棄かジビエ利用ができるか確認します。廃棄を一括しておこなうことで、有害鳥獣の不法投棄もなくなりました。
ジビエイノシシと判定されたイノシシは解体し、部位ごとの分別および商品化していきます。町内の店舗への委託販売から個人業者へのブロック販売も行い、市町からの依頼によりイベント出店し、脊振ジビエのPRも行っています。
年末年始以外は、午前8時半〜正午まで土日祝日関係なく受け付けしています。

(Q4)有害鳥獣駆除活動をしている猟友会は、どんな組織ですか?
猟友会は、狩猟を趣味とする人たちが集まった全国組織です。会員は狩猟税を納め、毎年11月15日から翌年2月15日までの狩猟期間中、カモなどの狩猟鳥類を対象に狩猟を行っています。
約40年前からイノシシやカラス、アライグマといった野生動物による農作物への被害が深刻化しました。これを受けて、地域住民が市町村の役場に駆除を要請し、役場からの依頼により猟友会が有害鳥獣の駆除活動を行うようになりました。

(Q5)約40年前はこの辺りにイノシシは、いなかったのですか?
ほとんど見かけることはありませんでした。現在のように広い範囲で出没することはなく、個体数もごくわずかだったようです。当時は、イノシシはとても珍しい存在でした。

(Q6)イノシシは、いつでもジビエにできるのですか?
雄雌の違いはあるけれど、秋から春(10月〜3月か4月くらいまで)が脂がのっていてジビエにすると、おいしい時期です。雌は子どもを産み育てているときは、ガリガリに痩せます。

〇若手後継者
数年前から加工センターでイノシシを食肉加工する手伝いをしている常富輝幸さん(永田ヶ里)、佐藤美智子さん(みやき町)と役員の大澤達之さん(神埼市)にインタビューしました。

(Q7)若手後継者の印象は?
(大澤さん)イノシシ関係の先輩たちは、この若い2人を頼りにしていますよ。

(常富さん)若いと言われても、60代ですからね〜。

(大澤さん)役員のなかでも72歳の私が最年少ですよ(笑)。
1番うれしいのは、私です!

(Q8)加工センターに関わるようになったきっかけは何ですか?
(常富さん)加工センターに関わるようになったのは、5年前に狩猟免許を取ったのがきっかけです。親戚の家の裏山で毎年たけのこ掘りをしていたのですが、10年ほど前からイノシシの被害がひどくなり、何とかしようと自分で勉強して狩猟の免許を取りました。それが始まりでした。

(佐藤さん)私はもともとペットフードの製造と販売をしていて、この加工センターにはお肉を買いに来るお客さんとして通っていたんです。最初の頃はジビエブームもあって、お肉がなかなか手に入らないことも多くて、「小さなイノシシでもいいので、譲ってもらえませんか?」ってお願いしたこともありました。でも、譲っていただいても、自分で解体しなきゃいけなくて。それで、やり方を少しずつ教えてもらっていたら、「(加工センターを)手伝ってみない?」って声をかけてもらったんです。それがきっかけです。

(Q9)加工センターに関わるようになって感じたことは?
(佐藤さん)最初は、イノシシって山にいるものだし、「ただで手に入るんじゃないの?」なんて思っていたんです。でも実際に関わってみて、その考えはまったく違っていたことに気づきました。
イノシシは、猟師が罠を仕掛けてから毎日見回りをして、もし捕まっていたら、ストレスがかかりすぎないように2〜3時間以内にきちんと処理をされています。その後も、数人がかりで検査をしたり、マニュアルに沿って丁寧に精肉処理を行っていて、本当に手間ひまがかかっているんです。
こうした現場の様子を見て、「ジビエのお肉に値段がつくのは、ちゃんと理由があるんだな」と納得しました。

(常富さん)搬入されたイノシシが全部ジビエにできるわけじゃないんですよ。実際、ジビエとして出荷できるのは1割くらいで、ほとんどは状態がよくなくて加工には回せません。それでも、処理は全部手作業なので、忙しい時期は本当に大変です。私も佐藤さんも、まだジビエにできるかどうかの見極めはできなくて、そこは熟練の先輩方にお願いしています。やっぱり経験がものを言う世界ですね。私たちもまだまだ日々勉強中です。

(Q10)イノシシの解体作業で難しいことは?
(佐藤さん)もともと医療従事者で血を見ることは怖くなかったです。解体は難しいけれど、やりがいはあります。きれいにお肉がとれると「よしっ!」となります。初めはお肉がぼろ雑巾のようになって、何カ月もかかりました。

(常富さん)段取りを覚えるまでに半年近くかかりました。部位取りとかが難しくて、勉強して説明できるようになるまでは、包丁の入れ方もわからなかったです。