くらし 【人の風景】霧島に生きる Vol.201

■笑顔咲く和菓子店

林薫さん(78)・美代子さん(75)
店には、付き合いのある作家さんの藍染めや小物なども並ぶ。休日は二人そろってドライブや買い物に行くのが癒やし。
隼人町在住。

「ずっとお菓子を作り続けてきたから、右手の人差し指は左より太く、曲がっているんだ」。そう言って手を見せてくれたのは、隼人町にある和菓子屋隼人庵で腕を振るう林薫さん(78)。薫さんの手は、器用にあんを丸め滑らかな表面に仕上げると、きれいな上生菓子が現れました。
隼人庵には郷土菓子から上生菓子まで、色とりどりの和菓子が並びます。菓子を手掛けるのは薫さん、店頭で接客するのは妻の美代子さん(75)です。「お菓子作りにかけては、一切手を出せないんですよ。蒸し器にまんじゅうを並べるのでさえさせてもらえないの」と美代子さんは笑い交じりに話します。それに対し「私が店頭に出ると、奥さんはってすぐ聞かれる。お客さまはお菓子目当てじゃなくて、妻と話したくて来てるんじゃないかな。お客さまからの声を妻に聞いて、お菓子に反映させることもある」と返す薫さん。隼人庵は、二人の心地良い分業によって成り立っています。
薫さんがお菓子を作り始めたのは58年前のこと。会社勤めに思い悩むようになり、元々物作りが好きだった薫さんは、親の勧めもあって菓子職人を目指します。「鹿児島で店を開くならその土地の味を学ぶべきと、鹿児島市の店に住み込んで修行を積みました。つらく厳しい日々でしたが、自分から教えを請うた手前逃げ出すこともできず、踏ん張った。あの時があるから、その後の苦労を乗り越えられたんだろうな」と薫さんは目を細めます。
大変な修行の傍ら通信教育を受け、さらに研究生として専門学校でも菓子作りを学んだ薫さんは、26歳で隼人庵の前身である『菓匠はやし』を開業。程なくして美代子さんと出会い、二人三脚で店を盛り立てていきます。「当時のお菓子屋は和菓子も洋菓子も扱うのが当たり前。クリスマスから正月にかけては、本当に寝る間も惜しんで働きました」と美代子さんは振り返ります。
現在の隼人庵が和菓子を専門にしているのには、理由があります。「どうせ作るなら地元の味や季節を感じてもらいたくて、和菓子を中心にすることに。4月の桜餅に始まり端午の節句のかしわ餅、田植え時期になればふっかんと、季節のお菓子を置きます」と話す薫さん。ふっかんという菓子は隼人町浜之市に伝わる郷土菓子で、製造・販売するのは隼人庵だけです。上生菓子にもこだわりを見せる薫さんは「甘さや舌触りなどを考え、それぞれ適したあんを使います。手間はかかるけれど、この優しく華やかな和菓子で四季を楽しんでもらいたい。お客さまの笑顔のために和菓子を作り続けたいね」とはにかみ、美代子さんと一緒に今日も『美お味いしいふるさと』を届けます。

■和菓子屋隼人庵
場所:隼人町真孝169-7
営業時間:午前9時~午後6時
定休日:日曜

問合せ:和菓子屋隼人庵
【電話】42-3020