- 発行日 :
- 自治体名 : 北海道足寄町
- 広報紙名 : 広報あしょろ 令和7年9月号
■動物化石博物館情報
◯新しい展示と新しい研究
博物館には足寄から見つかっているアショロアやアショロカズハヒゲクジラなど、足寄動物群とよばれる化石たちのほかにも、十勝や道東から見つかっている面白い化石がたくさん収蔵・展示されています。今回紹介するのは浦幌町から見つかっているアロデスムスの全身復元骨格などの新しい展示と、新聞などでも紹介された阿寒町から見つかっているパレオパラドキシアの仲間化石の研究成果です。
アロデスムスはおよそ1500万年前の北海道の海で泳いでいた原始的なアシカやアザラシの仲間です。以前も紹介しましたが、クジラの仲間ではなく、イタチに近い仲間、もっと広く見ると、クマやイヌ、ネコと関係が近い動物です。このアロデスムスのいる鰭脚類(ききゃくるい)の展示コーナーが新しくなりました。今まではアロデスムスの化石は産状標本と言って、化石がどのように地層に埋まっていたかを示すものしかなく、鰭脚類の全身骨格としては、いま生きているトドの骨格しかありませんでした。今回の展示の更新では、アロデスムスの全身復元骨格を制作し、復元画もそれにあわせた新しいものになりました。また、アシカの仲間であるトドと並んで鰭脚類の代表的な動物であるアザラシ(ゼニガタアザラシ)の全身骨格も展示を開始しました。特にアロデスムスの全身復元骨格は、アロデスムスの研究チームと博物館スタッフが議論を重ね、個人的には『世界一かっこいい』アロデスムスの全身復元骨格となっています。また、アザラシも骨にしてみると、生きている姿とは違った印象があり、トドとの体つきの違いがよくわかります。実はアロデスムスはアザラシにより近い仲間であるとの研究が有力なのですが、手足のバランスなどを見るとトドのほうによく似ている印象を受けます。1500万年前に戻ると、いま親しんでいる動物たちも違った姿をしていたものがいたことがわかります。新しい展示では、アシカやアザラシの泳ぎ方の違いや進化の道筋の違いもわかるようになっていますので、ぜひ博物館に足を運んでいただいて、この新しい展示を見ていただきたいと思います。
もうひとつの化石は阿寒町から見つかっている束柱類であるネオパラドキシアの化石です。新聞などで紹介されましたが、最近の研究成果として論文が発表されたものです。この化石自体は30年以上前に見つかっていたもので、束柱類の一つであるパレオパラドキシアの仲間だろう、というところまではわかっていたのですが、より詳しい正体はわからないままでした。今回、博物館と岡山理科大学との共同研究で、この化石がいままでアメリカからしか報告されていなかったネオパラドキシアという種類であることがわかりました。パレオパラドキシアの仲間は、デスモスチルスの仲間と並んで、北太平洋の沿岸エリアでたくさん見つかっている化石で、日本でもたくさん見つかっています。足寄で見つかっているアショロアやベヘモトプスと比べるとずっと新しい時代に生きていた種類で、今回の化石は浦幌のアロデスムスと同じ時代、約1500万年前のものです。阿寒町からはパレオパラドキシアの仲間だけでなく、デスモスチルスの仲間も見つかっています。また、今回の研究では、束柱類がなぜ絶滅したか?という謎につながる研究成果もありました。束柱類の絶滅に関してはいろいろなシナリオが考えられているのですが、今回の研究では気候の変化に注目し、束柱類の多様性の変化が当時の気候の変化と関連があることがわかったのです。また、デスモスチルスの仲間とパレオパラドキシアの仲間とでは気候への好みが違っていることがわかりました。デスモスチルスの仲間とパレオパラドキシアの仲間とでは、歯の発達や骨の内部構造にも違いがあり、食べ物の種類や行動の違いが気候の好みと関連しているかもしれません。
阿寒町からは束柱類だけではなく、そのほかの海の哺乳類の化石も見つかっており、研究が進みだしたものもあります。『足寄が海だった時代』のその後の北海道の海の世界が今後ますます明らかになっていくかもしれません。