くらし 男女共同参画コラム

■連載173
▽仕事について考える
稚内大谷高等学校校長 平岡祥孝

天高く馬肥える秋。食の秋を満喫したいですね。余談ながら、私は「実るほど頭を垂れる稲穂かな」を座右の銘の一つにしています。ちなみに私は前期高齢者になった今も、人間的には未成熟ですが。
さて昨今は、ハラスメントに対する危機意識と抑止効果が高まってきていると言えるでしょう。もちろんハラスメントが根絶できない実態はあるものの、社会が許さなくなってきているのも紛れもない事実です。
それでは、将来を担う10代後半の男女は何をハラスメントだと考えているのでしょうか。全国の17~19歳の男女(男性513人、女性487人)に対して、2025年3月5~7日実施したインターネット調査(複数回答)によれば、「ミスについて大声で注意される」が男女とも第1位であり、男性45・2パーセント、女性59・3パーセントでした。第2位は、男性では「定められた勤務時刻より早く出勤する習慣がつくられている」40・0パーセント、女性では「交際関係など、プライベートなことについて聞かれる」44・4パーセントでした(日本財団「18歳意識調査『第68回―仕事・職業観ー』報告書」(2025年4月))。
耐性が弱くなっている世代ゆえに、大声を出されて注意されると委縮してしまうのではないでしょうか。女性ならば恐怖心すら覚えてしまうかもしれませんね。これまで家庭や学校で怒られたり、叱られたりした経験があまりないとも言われている10代です。したがって、とりわけ対面指導においては、心理的安全性を担保することは当然です。指導や注意するTPOも考える必要があります。衆人環視といえば大げさでしょうが、同僚や先輩の前で大声を発する恫喝まがいの叱責は避けるべきでしょう。酒席の場はご法度か。若者の自尊心が傷つく可能性があります。
ここでもう一つの調査を紹介したいと思います。中高生があこがれる先輩像について、中学生男女各100人、高校生男女各400人に聞いた調査(複数回答)です。中高生男女ともすべて「優しい」が第1位でした。中学生男子55・0パーセント、中学生女子66・0パーセント、高校生男子43・8パーセント、高校生女子58・3パーセントでした(ソニー生命保険(株)「中高生が思い描く将来についての意識調査」(2024年7月))。中学生・高校生ともに男子よりも女子の方が、数値は高くなっています。前述したハラスメントの場合でも、大声に対する受け取り方も、女性の方が男性よりも14ポイント以上高くなっていました。
ここで注意しなければならないことは、新入社員への指導の在り方です。優しいことと甘やかすことは全く異なるでしょう。たとえば、社会人歴3年以上の先輩・上司(n=400)は新入社員へのマナー指導の難しさについては、「とても感じている」「やや感じている」の合計は52・3パーセントでした((株)リクルートマネジメントソリューションズ「社会人のマナーに関する調査」(2024年3月))。半数以上が指導の難しさを実感しているようです。社会経験や職業経験が乏しい若者に、先輩・上司が挨拶・言葉遣いの大切さを教えることは極めて重要です。これまで教えられていなかったとも言えましょう。人に分け隔てなく優しくしつつも、本人の成長のために注意や指導も必要です。その際に理由や根拠を示しながら、気づきを与えることから始めて丁寧に伝えたり、諭したりすることもコミュニケーションスキルです。共感的理解から納得性への道筋をつけることは、育てる経営では必要不可欠です。

▽ひらおか・よしゆき
元札幌大谷大学社会学部教授。英国の酪農経営ならびに牛乳・乳製品の流通や消費を研究分野としている。高校生・大学生の就職支援やインターンシップ事業に携わってきた経験から、男女共同参画、ワーク・ライフ・バランス、仕事論、生涯教育などのテーマを中心に、講演やメディアでも活躍。