くらし 3・11震災文庫を読む 79

東日本大震災を語り継ぐため市民図書館に設けた「3・11震災文庫」。所蔵する約1万冊から、よりすぐりの本をご紹介します。

◆地震・津波の記録をたずねて
東北文化学園大学 特任教授 渡邉 洋一
「宮城縣海嘯(けんかいしょ)誌」宮城縣/編
「宮城縣昭和震嘯(しんしょ)誌」室谷精四郎/編者、宮城縣/編

両書は、共に宮城県が行政文書として発刊した明治三陸地震(マグニチュード(M)8・2、明治29年6月15日発生)に伴い発生した明治三陸大津波(最高位38・2m)と昭和三陸地震(M8・8、昭和8年3月3日発生)に伴い発生した昭和三陸大津波(最高位28・7m)の宮城県内の被害状況を詳細に記録した報告書です。
特に「宮城縣海嘯誌」は、災害の記録を詳細にまとめた初期の報告書としても価値が高く、東北の太平洋沿岸部のリアス式海岸を陸奥(むつ)・陸中・陸前の三つの旧国名から取った「三陸海岸」と称するきっかけともなりました。その内容は、まず古来この地域で発生した地震・津波を検証して明治の地震・津波の概要を記した上で、地域ごとの被災地の罹(り)災状況と救護体制、行政施策などを明記しています。ここで見逃せないのは全国各地からの救援・義援の数々の明記と被災者(生存者)の逸話の掲載で、今後の海防に関する指針ともなっている点です。
同じく「宮城縣昭和震嘯誌」についてもその構成は同様で、特記すべきは当時の専門家による学術論文が掲載されていることと、それを根拠とした防災対策に対しても言及している点です。事実、宮城県では発災後「海嘯罹災地建築取締規則」の宮城県条例が施行されていますが、東日本大震災ではその教訓が生かされず終(じま)いでした。

紹介した本は、市民図書館でご覧いただけます

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