- 発行日 :
- 自治体名 : 山形県
- 広報紙名 : 県民のあゆみ 令和7年7月号
撮影場所:いいでカヌークラブ(飯豊町)
キーワード:自然と暮らしが地域を盛り上げる種に
アクティビティや文化体験を提供する五十嵐丈さんと、水没林のカヌーツアーなどの自然体験を提供する堀江守弘さんに、地域の独自性やその魅力についてお聞きしました。
■五十嵐丈(いがらしじょう)さん(鶴岡市)
1993年鶴岡市生まれ、同市在住。グリーンブルーあつみで観光コーディネーターとして、自然や文化体験プログラムの企画・体験サポートを行う。一方、限界集落となった生まれ故郷に産業を興すための事業に関わり、羽越のデザイン企業組合で地域振興にも携わる。また、フォトグラファーとしても活動し、持続可能な地方での暮らし方を模索している。
写真キャプション:夏はサップやカヤックなど、海のアクティビティを提供するほか、鼠ヶ関のイカの一夜干し作りやしなの糸を使ったクラフト体験など、地域の自然や文化を生かした多彩な体験プログラムを展開。また、教育旅行の受け入れにも積極的に携わる。
■堀江守弘(ほりえもりひろ)さん(飯豊町)
1981年飯豊町生まれ、同町在住。エイチ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。大学卒業後スウェーデンに2年間スキー留学したのち、プロのアスリートとして、スキーの世界選手権やワールドカップを転戦する。2017年、飯豊町にUターン。水没林のカヌーツアーを主軸にアウトドアガイドを行うほか、近年では気球フライト体験など、新たな事業にも着手する。
写真キャプション:水面から空へと伸びる木々の間をカヌーで行き交うアクティビティは、日本で唯一無二のものとして、旅行客から注目を集める。世界の自然を見てきた中で、山形のオンリーワンの魅力を再認識し、「地域の魅力をグローバルへ」と心を燃やし活動している。
■日常の風景を旅の目的に変える地域価値の発見
「山形は、変化の大きい四季や独自の食文化など、さまざまな魅力に溢れています。海外生活で山形の魅力を再発見しました」そう話すのは、飯豊町を拠点に活動する堀江さん。地元を元気にする仕事がしたいと、アウトドア体験を中心に、地域の魅力を伝える事業を展開しています。
「コロナ禍のアウトドアブームによって、水没林でのカヌーツアーを、旅の目的としてくれる方が増えました。早朝のカヌーツアーでは、幻想的な雰囲気で非日常のようだと喜んでいただいています。以前は無名に近かった白川湖の水没林ですが、今や地域に人を呼び込む吸引力となり、町の観光を変える大きな要素になっていると感じます」。
カヌーを漕ぎながら交わす何気ない会話も、地域の魅力を伝える良い機会になっていると堀江さんは話します。
一方、鶴岡市の温海地域を中心に、観光コーディネーターとして活動する五十嵐さんは、大学時代から地元の過疎化に危機感を抱き、観光業に関わりはじめました。
「地域には、価値があっても価格がついていないものがたくさんあります。観光商品として企画、販売することで、地域に人の流れや経済の循環が生まれると考えています。人口100人に満たない地区であっても、そのなかで仕事を作れたなら、少なくとも過疎化を先延ばしすることができるはずと仮説を立て、地域に根付いた文化や、日本海での体験プログラムを提供しています」。しな織体験で子どもたちが関川地区を訪れた際、元気な声が響き、にぎやかでうれしいと地域の方々が喜んでいたと五十嵐さんは話します。
■人と人とのふれあいが、観光の価値も高めていく
それぞれに活動を続ける中で見えてきたのは、価値に気づく力の重要性だとお二人は話します。
「県内の教育旅行の目的地が都市部に集中している現状は、魅力は外にあると思ってしまう要因になるのかも知れません」と堀江さん。
「小さい頃から山形の自然や文化に触れ、魅力に気づくことで、進学などのタイミングで都市部へ流出してしまう若者を減らすことにもつながるのでは」と話します。
その言葉に五十嵐さんもうなずき、「私たち受け入れ側の質が高まれば、県内の各地域が連携して、好循環が生まれるはず」と応えます。
また、お二人が山形の魅力として強調するのは、ふれあいの力。
「県外からの観光客の多くは、人のあたたかさに感動してくれます。人の心もまた、大切な観光資源になるのです」と堀江さん。
五十嵐さんは「同じ観光地に何度も行く人は少ない。でも、心に残る交流があれば、再び訪れる理由になるはずです」と、小さな移住体験のような手法で、関係人口の創出にも力を入れたいと話します。
お二人のまなざしの先には、県民自らが地域に誇りを持ち、その魅力を伝えていくことで、持続的に発展していく山形の未来が、はっきりと描かれています。