くらし [特集]80年前の記憶を今に(4)

■舞台に込める平和への想い
ー前橋空襲をミュージカルでー
「前橋空襲の悲劇を風化させない」――。戦時下に生きた若者や街の描写を通して、戦争の不条理と平和の尊さを訴えるミュージカル「灰になった街」が8月2日(土)・3日(日)に公演されます。この作品は出演者全員がアマチュアで構成された市民ミュージカル。未経験者が多い中、1年間に約70回の練習を重ね、3時間を超える舞台を作り上げています。また、今年は前橋空襲の体験者などの証言を集めた冊子「前橋空襲体験談」を来場者に進呈します。
[まえばし市民ミュージカルの歩み]
平成26年市民ミュージカル発足
平成27年「灰になった街」上演(戦後70年)
平成29年「我愛你(ウォーアイニー)」上演
令和元年「鎮魂華」上演
令和5年「灰になった街」再演
令和7年「灰になった街」再々演(戦後80年)

◇若い人にこそ見てほしい
市民ミュージカル総監督
新陽一さん
まえばし市民ミュージカルは、出演者を固定せず、毎回7〜8割が新たに参加するメンバーで構成されています。発足から10年が経ち、関わる人の輪が広がっています。
戦後80年もの間、平和が続いてきたことは喜ばしいこと。しかし世界では、力による現状変更のニュースが絶えません。10年前の初演パンフレットに記した「2015年は戦後ではなく、戦前だったといわれる日が来るかもしれない」という言葉が、今まさに現実化しています。
「空襲をミュージカルでやる意味があるのか」と問われることもあります。戦争は重く、扱いが難しいテーマですが、歌とダンスの力で和らげ、観客に届けられるのがミュージカルの魅力。笑いや涙、感動があるエンターテインメントとして若い世代にも伝わる力を持っています。

◇戦争の記憶を受け取り次の世代へ
米利加(メリカ)役「前橋空襲体験談」編集長
花岡幸音さん
冊子「前橋空襲体験談」の取りまとめを担当しました。ミュージカル出演者が空襲体験者に話を聞き、30人ほどの証言を集めました。本人の体験ではなく、聞き伝えられた内容も含まれています。証言をまとめる中で、「ミュージカルで演じていることが、この街で本当に起きていたんだ」と実感しました。
前橋で空襲があったことを知らない人は多く、私自身もミュージカルに参加するまで知りませんでした。
学校の授業ではあまり触れられない地域の戦災の歴史を知り、次の世代に伝えていくことは大事なこと。戦争体験者が少なくなっていく今、その記憶を受け取り、伝える意義は大きいと思います。

■過去の記憶と平和への願いを未来へとつなぐ
ー前橋空襲と復興資料館が開館ー
前橋空襲と復興の歩み、そして平和を願う市民の思いを後世へ継承するため、「前橋空襲と復興資料館」を今年4月に開館。館内は「開館までのあゆみ」「資料でみる戦争とくらし」「前橋空襲」「復興」「慰霊」「図書室」の6つのコーナーで構成されています。
戦争体験者が少なくなっていく今、非体験者が語る公的資料館としての役割を担い、体験者の声を記録し、語り継ぐ拠点として歩み始めました。
場所:昌賢学園まえばしホール
開館時間:10時〜17時(最終入館は16時30分まで)
休館日:火曜(祝日の場合は翌平日)、年末年始
※8月5日は開館
入館料:無料

《市民の力で資料を発掘 地域の戦災を語り継ぐ場に》
前橋空襲と復興資料館検討委員会委員長
手島仁さん(下佐鳥町)

◇設立の経緯
戦後70年を迎える少し前から、「前橋空襲を風化させてはいけない」という市民の声が上がり、山本市長(当時)の「歴史文化遺産を大事にしたまちづくり」の方針のもと、戦争を体験者から非体験者が語り継ぐあり方を模索した結果、市民の熱意と市長の英断により、市による資料館の設置が決定しました。

◇資料と展示に込めた思い
市民の協力のもと、防空監視哨(しょう)の写真や空襲に備えて行われた家族会議や戦災医療措置会議のメモなど、新たに発掘された貴重な資料が集まりました。
展示では、昭和39年に市が編纂した『戦災と復興』の内容を分かりやすく伝えるため、市民の証言を「虫の目」(地上の視点)、アメリカの公文書を「鳥の目」(上空からの視点)として対比。前橋空襲の実像を立体的に理解できるよう工夫しています。
また、日本各地で地震や風水害による地域社会の崩壊が起こっているため、「立ち上がる力」を記録・共有することは現代にも必要だと考え、「復興」の展示内容も充実させました。そして、前橋空襲を風化させないために空襲殉難者名を記しました。

◇平和を考える拠点に
前橋空襲は、戦争で一夜にして前橋が消滅したと言っていいほどの出来事でした。戦争や平和を考えるとき、広島・長崎・沖縄とともに前橋空襲などの地域の視点から考えることも重要です。資料館が前橋空襲を通し「平和を続けるのはどうすればいいか、常に考える場」になることを期待しています。