- 発行日 :
- 自治体名 : 埼玉県蕨市
- 広報紙名 : 広報蕨 令和7年10月号
第37回墨芳展 特別審査委員長賞受賞 稲葉 英楓(いなば えいふう)さん
■見る人の心に届く書を
県内最大規模の書道団体墨芳会(ぼくほうかい)が主催する第37回墨芳展。8月下旬に開催されたこの展覧会で最高位の特別審査委員長賞に輝いたのは、稲葉英楓さん(中央在住)です。
子どもを書道教室に通わせたことをきっかけに、好きだった書道を再開。43歳のとき、仮名を専門とする守屋春玲(もりやしゅんれい)さんのしなやかな線質の書に憧れ、自身も見た人の心を和ませる書を目指したいと師事しました。以来、月2回の先生の指導の下、時間を見つけては筆を持ち、日々練習を重ねるとともに、「良い作品に触れ目を肥やしなさい」という教えから多くの展覧会にも足を運び、感性を磨いてきました。
受賞作は題材に、雨上がりの秋の夕暮れを詠んだ百人一首の歌を選び、見た人がその情景を感じられるような工夫を凝らしました。緑のぼかし染めの和紙で槇(まき)の葉を想起させ、墨のかすれは、雨にぬれた葉に霧が白く立ち上っている幻想的な景色を表現。家事の合間を縫って構想を練り、何枚もの試作を重ねました。そうして出来た候補の中から最後に選んだのは、気負わず書けた作品です。「力を抜いて書いたもののほうが、自然な流れや余白の美しさが伝わると思いました」と稲葉さん。思いが通じ、作品全体の構成や、文字の流れの美しさが評価され、みごと受賞となりました。
「受賞は光栄ですが、まだまだ力不足。課題は多いですが、その終わりのない道の奥深さにひかれています」と書道への思いを謙虚に語る稲葉さん。最近では、そんな書の魅力を地域の皆さんにも伝えようと、わらび学びあいカレッジの講師としても活動するなど、活躍の場を広げています。見る人の心に届く書を―。受賞を糧に更なる研鑚(さん)を積みながら、これからも探求は続きます。
