- 発行日 :
- 自治体名 : 千葉県長南町
- 広報紙名 : 広報ちょうなん 令和7年7月号
高齢者ではうつ病が多く、認知症の原因であるだけではなく、認知症のリスク因子、認知機能障害の促進因子でもあることをご説明しました。今回は高齢者のうつ病で生じうる妄想についてご説明しましょう。
妄想とは、事実ではないが、本人が確信しており、通常の説得では訂正できない考えをいいます。認知症では物盗られ妄想がよくあることが知られています。これは、もの忘れなどがあって不安が強まった人が、なくさないように、また盗まれないように一生懸命しまい込んでしまったりして、後で見つからなくなり、自分がしまい込んだことを忘れて、誰かが盗ったのではないかと訴えるものです。認知機能障害に伴う不安や、物の整理整頓ができないことが要因であることが多いので、不安や困りごとを共感、共有したり、一緒に探したりすることで改善することもあります。
うつ病で認められる妄想は微小妄想と呼ばれています。これは、実際にはそんなことはないのに、自分の価値を低く捉えてしまう妄想です。健康面の心気妄想、経済面の貧困妄想、社会的側面の罪業妄想に分類されています。高齢者で多いのは心気妄想、貧困妄想になります。心気妄想では、実際にはそんなことはないのに、自分が重大な病気にかかっていると思い込んでしまい、医療機関で異常はないと言われても納得しません。
[ケース1]心気妄想 70歳男性
几帳面で真面目な人でした。65歳定年後は何不自由ない年金生活をしていましたが、寝付きが悪い、眠りが浅いなど不眠を訴えるようになりました。その後、些細な身体的異常を気にして、頻回に医療機関にかかるようになりました。いわゆるドクターショッピングをしていたこともあったようです。吐き気がする、胃がムカムカすると訴え、自分は胃がんで先行きが長くないと信じ込んでしまっています。内科で胃カメラをしてもらい、異常がないことを説明されても、納得しません。
誰でも高齢になれば、身体的不調が生じることがあります。こうした些細な身体的異常が不安で増幅され、心気妄想へと発展してしまうことがあります。普通は胃カメラをして異常はないと言われれば、安心して訴えは改善するものですが、心気「妄想」なので訂正されることはありません。こうした心気妄想が「病苦を動機にした自殺」につながることもあるので注意が必要です。本人には自分が病気であるという認識、いわゆる病識はないため、周囲の人がうつ病の可能性に気づき、適切な精神科医療を受けられるようにすることが重要になります。さらにこのケースでは、「寝付きが悪い、眠りが浅いなどの睡眠障害」があることも気づきのポイントの一つです。うつ病では最初に不眠、特に朝早く目が覚めてしまう早朝覚醒などの睡眠障害が認められることがよくあります。
次回は貧困妄想についてご説明しましょう。
■上野先生を講師に迎えた「認知症学習会」を毎月開催しています。ぜひご参加ください。
日時:7月16日(水)15時〜16時(要事前申込)
場所:保健センター
問い合わせ(申込先):福祉課 包括支援センター
【電話】46-2116