健康 長南町認知症サポート医〔上野秀樹先生〕の認知症見立て塾[第51回]

先月号は記念すべき50回目ということで、これまでの私の診療経験について書きました。今回は、この地域で認知症の診療を始めてから思うところを述べたいと思います。
認知症の人や精神症状のある高齢の人を専門に診療するようになって、20年以上が経過しました。最初は都立松沢病院の認知症専門病棟での入院加療の経験を積み、その後は地域の中で認知症の人を支えるための診療の工夫に試行錯誤を重ねてきました。ここ数年間は、認知症の予防に関する活動にも力を入れています。
認知症は、いったん正常に発達した知的能力が何らかの原因で低下してしまい、もの忘れや見当識障害などの認知機能障害があるために、日常生活・社会生活に支障を来した状態を言います。
そもそもなぜ、もの忘れや見当識障害などの認知機能障害があると、生活障害が生じてしまうのでしょうか。それは、私たちの社会が五体満足の健常者、いわゆる社会の中の多数派の人たちが暮らしやすい社会となっているからなのです。アフリカに生まれた私たち人類の祖先は、数万年以上の長い時をかけて進化し、社会の多数派の健常者が暮らしやすい社会を創りあげてきました。身体障害や精神障害、認知機能障害、発達障害があったりする社会の少数派の人たちは、適応するのが難しいことがあり、生活障害が生じてしまうのです。
生活障害がある認知症の人に必要なのは、生活障害に対する適切な支援です。人によって生活障害は様々です。また、その地域環境や居住状態によって得られる支援も様々です。2000年に介護保険がスタートしてから、それまでは考えられなかったいろいろな支援が介護保険を利用して得られるようになりました。これらは社会の少数派の人たちが社会に適応するのを支援するやり方です。
これから私たちが考えていく必要があるのは、私たちの社会のあり方を変えること、社会の中の少数派である認知症の人が暮らしやすい社会を創っていくことです。認知症など社会の少数派が暮らしやすい社会を創ることは、結果として多数派である健常者がより暮らしやすい社会を創ることにつながります。
私は2013年に長南町に移り住んで早13年目になりました。長南町で生活するようになって強く感じるのが、この町の人の思いの温かさ、優しさです。多くの課題はありますが、この町であれば、日本全国に先駆けて、認知症の人に優しい町を創れるのではないかと考えています。

■上野先生を講師に迎えた「認知症学習会」を毎月開催しています。
ぜひご参加ください。
日時:10月15日(水)15時〜16時(要事前申込)
場所:保健センター 2階 第3会議室

問い合わせ(申込先):福祉課 包括支援センター
【電話】46-2116