くらし 知ること、語り継ぐこと。~戦後80年を迎えて~(2)

■知ること、語り継ぐこと。世代を超えた二人の対話
・市川晴代さん
太平洋戦争が開戦した年に生まれる。
4歳の時に出征する兵士を描き、絵画で戦争を表現する最初の体験となる。
平成20年頃より、自身の戦争体験や戦後の生活を絵画に描き始め、立川、小平、東村山などの多くの小学校で、描いた絵画を題材に、自らの体験を語る活動や、展示会を行う。

・岩本正弘さん
2008年生まれ、多摩みどり幼稚園~久米川小学校~東村山第二中学校卒。
小学5年生で戦争の悲惨さと平和の尊さを学び、身近な人との良好な関係づくりに取り組み始める。
現在は高校で部活を掛け持ち、東村山っ子育成塾や多摩六都科学館でボランティアの他、多摩26市共同事業「多摩地域平和ユース研修事業」で活動中。

戦後80年。戦争の記憶は少しずつ遠い過去になろうとしています。色あせていく記憶を、私たちはどう未来へ繋いでいけばいいのでしょうか。
今回は、ご自身の戦争体験を絵で語り続ける市川晴代さんと、市の平和事業で広島を訪れた高校生の岩本正弘さんが対談します。世代を超えた二人の言葉から見えてくる、平和な社会のために「今、できること」とは。

本日はありがとうございます。まず、お二人が平和について深く考えるようになった、それぞれの原点をお聞かせください。
市川:私は立川で生まれました。立川は陸軍の施設がたくさんあったものですから、敵の飛行機がたくさん来たんです。終戦は4歳の時でしたけど…やはり、あの「怖い」という気持ちは忘れられません。もともと絵を描くのが好きで、小学校では「絵の晴代ちゃん」て言われるくらい。その絵で戦争体験を伝えようと描き始め、今では戦争中と戦後の生活の絵が35枚あります。小学校で展示した機会に、当時の校長先生に「生徒にぜひお話をしてくれませんか」と声をかけていただいたのが、今に続く出前授業の始まりですね。
岩本:僕が市の広島派遣事業に参加したのは、小学5年生の時です。その頃、人前で発表することにあまり自信がなくて…。父に相談したところ、この事業を教えてもらったのが最初のきっかけです。父も、それまでに市の「平和のつどい」で派遣生の報告会を聞く機会があり、「5年生になったらチャレンジしてみたら」と背中を押してくれました。

○伝える現場、学ぶ現場
市川さんは出前授業で、岩本さんは広島で、それぞれ平和と向き合ってこられました。現場ではどのようなことを感じますか。
市川:授業では、子どもたちが本当に真剣に聞いてくれて、「ああ嫌だな、戦争は」と、その怖さを感じてくれていると思います。長いときは2時限使ってお話しするんですが、そうすると終わった後にいろんな質問が出たり、対話する雰囲気になるんです。何しろ、皆さん知らないですもんね。だから、まずは知ってもらうことが大切だと思っています。
岩本:僕が広島で戦争の事実を初めて知ったときは、やはり「むごい」ということが一番でした。ただれた皮膚の写真だったりとか、焼き付いた着物だったりとかを目の当たりにして…、自分だったらもう耐えられない、そう思いました。ほかのことが考えられなくなるくらいの衝撃でしたね。

○世代の壁を越えて
戦争を知らない若い世代に伝える難しさや、同世代との間で感じるギャップはありますか。
岩本:高校の友人に話を聞くと、戦争の映画やアニメをたくさん見すぎて「その話は聞き飽きたよ」と言う人もいます。でも、当時のことって、いくら見ても、いくら聞いても、やはり伝わらない部分がある。だからこそ、僕たちは学び続けないといけないんだと感じました。普段、学校で友達とこういう話をすることは、授業で関連映画を見た後くらいで、あまりないですから。
市川:学校でもあんまりそういう話はしないですよね。
岩本:はい。だから、今年参加する多摩地域共同の平和学習事業で、他の地域の人たちと同世代で集まって、こういう話を真剣にできる機会は本当に楽しみなんです。

岩本さんのように、思いを受け取ってくれる存在を、市川さんはどう感じますか。
市川:本当にいいことですよね。岩本さんも、そうやって自分の意見を述べるってこと、大事なことだから。これからもぜひ続けてください。私もいつまで元気でいられるか分からないんですけどね。
岩本:いえいえ、大丈夫ですよ!
市川:ありがとう(笑)。

○今、そして未来へつなぐ思い
戦後80年が経ち、世界では今も紛争が続いています。お二人は今の時代をどう見ていますか。
市川:ウクライナとロシアのことでも、一般の人がたくさん亡くなっていますよね。私たちと同じように、逃げることもできなくて、一般の人が被害にあっている。世界中がもっと関心を持って、戦争はいけないと、もっと強く発言してもらいたいと思います。…でも、日本は絶対にもう戦争をしないと思います。これだけ大変な経験をして…、絶対やらないと信じています。
岩本:僕もそう願います。
市川:岩本さんのような若い世代が、大きくなって、社会を平和に持っていこうという思いを持ち続けて欲しい。あのような怖い思いは、もう誰にもさせたくないですから。
岩本:はい、その思いは絶対、持ち続けていきたいと思います。まず、市川さんのように体験した方々が僕たちに伝えてくれなかったら、今、この場で僕がしゃべっていることもあり得ない。だから「伝えてくれてありがとうございます」という感謝を、僕たちが責任を持って行動で示していきたいです。

○私たちにとっての「平和」
最後に、お二人にとって「平和」とはどのようなものか、改めてお聞かせください。
市川:平和ね…。本当に、なんて言うのかな、平凡に暮らせること。それが一番です。普通に3食食べられて、子供、孫、今はひ孫もいますが、家族と一緒に生活できて。周りのお友達やご近所さんとたくさんお話ができる機会があること。朝はゴミ拾いから始まって、ラジオ体操で皆さんとお話ができて…。そういう毎日のことが、すごく嬉しいですよね。
岩本:僕も同じ考えです。友達と会えたり、学校に行けて、授業を受けられたり。そういう当たり前のことが、僕にとっては平和です。昔のことを知るからこそ、今のこの平和を実感できるのだと思います。

岩本さんは多摩地域共同の平和学習事業を踏まえて、来年2月には政策提言の発表をされるそうですね。
市川:まあ、それは素晴らしい。ぜひ頑張ってくださいね。
岩本:はい、頑張ります!

対話で語られた平和の日常の尊さと、それを未来へつなぐ大切さ…まずは考えるきっかけとして、今回の平和のパネル展示、平和映画会、朗読劇などへ、足を運んでみませんか。

問合せ:市民相談・交流課