- 発行日 :
- 自治体名 : 神奈川県厚木市
- 広報紙名 : 広報あつぎ 第1450号(2025年7月1日発行)
犯罪や非行をした人が新たな一歩を踏み出すため、背中を押す役割を担う保護司や協力雇用主。過ちを犯した人が自らの過去と向き合い、社会の中へ戻るために寄り添う皆さんの姿を追いました。
■保護観察とは
犯罪や非行をした人が再び過ちを繰り返さないように、社会生活の中で専門知識を持つ保護観察官や民間ボランティアの保護司が指導と支援をする制度。
■働くことで生きがいを
協力雇用主・静科(金田)
住宅街の一角にある町工場。モーター音を響かせながら、従業員が黙々と作業を進めています。吸音材などを製作する静科は、非行や犯罪歴のある人を受け入れて社会復帰を支援する協力雇用主です。今年で登録6年目を迎えました。
▽頑張りやすい職場に
協力雇用主は、保護観察対象者のうち、自分で仕事を探せない未成年や働き口が見つからない人を受け入れる事業主です。雇い入れた対象者の様子を見ながら、自立して生活できるように雇用を通じて支援します。職場環境の審査などを通過すると登録でき、雇用制度の仕組みや対象者との接し方などの研修を受けてから始まります。
静科が協力雇用主になったのは人手不足解消に向け、社長の高橋俊二さん(55)が人材の集め方を調べていた時。制度の存在を知って研修に参加しましたが「ただ働く場所をつくるだけではいけない。会社で働いた経験が一人の人生を左右するかもしれないという覚悟が必要だ」と意識が変わりました。会社に戻ると早速、どのような職場環境にするべきかを社員たちに相談。みんなで考えた末、特別扱いしないで接することを決めました。
受け入れが決まった対象者には他の社員と一緒に研修を受けてもらい、業務の手順などを間違えた時には同じように注意しました。従業員の岩﨑大輔さん(37)は「一緒に働くことに不安はなかった。仕事を説明する時も指導する時も丁寧に伝えるようにした。働く中で受け入れた人の成長を感じて、うれしかったのを覚えている」と当時を振り返ります。
▽未来につながる
これまで3人の対象者を受け入れてきた静科。2番目に来た川﨑幹翔さん(21・下川入)は、約3年間にわたり在籍し、吸音パネルの組み立て業務を担当していました。「当時は無断欠勤をしたり、締め切りを守らなかったりと、迷惑をかけたけれど、先輩たちはいつも優しく接してくれた。社会人として働く姿勢を教えてもらった場所」。現在、別の会社で働いている川﨑さんは「自分がしてもらったように、相手の気持ちを思いやれる先輩になりたい」と晴れやかな笑顔で話します。
▽仲間を増やしたい
高橋さんはより多くの企業に制度を知ってもらうため、会社が協力雇用主であることを公表しています。「制度を知らない企業はまだまだ多い。まずは知ってもらって受け皿を増やすことが大切」と力を込めます。企業が集まる場などで情報を広め、興味を持ってくれる人や実際に申し込んでくれる人がいることに手応えを感じています。
「楽しくなければ誰だって仕事を続けるのは難しい。飲食店や美容院などいろいろな業種の登録があれば、再出発する人たちの背中を押しやすくなるかもしれない」と話す高橋さん。社会に戻る人々を雇用の面からサポートできるよう奔走します。
■犯罪を繰り返さないために
保護司 高橋 知己さん(54・中町)
「良い天気の日が増えて、散歩が気持ちいいね」「体の調子は良くなったの」。日常の何げない話をする声が聞こえてきます。会話する高橋知己さんと保護観察対象者の田中一郎さん(75・仮名)は月2回、保護観察の面談をしています。高橋さんは、6年前から保護司として活動。約4年前から田中さんと面談を重ねてきました。対象者であることの後ろめたさから一人で過ごし、人とのつながりが薄い田中さんがリスタートするため、面談の時間を大切にしています。「高橋さんと会うのが楽しみ。うれしくてついしゃべり過ぎてしまう」と笑顔を浮かべる田中さん。高橋さんも照れくさそうに笑います。
▽迷いながらのスタート
保護司は、刑務所からの出所者や非行をした人などの保護観察対象者が再び罪を犯さないよう支援する民間のボランティアです。法務大臣から委嘱を受け、全国で約4万6千人、市内では現在45人が活動しています。
高橋さんが活動を始めたのは48歳の時。昔からの知り合いが保護司をしており、高橋さんが青年会議所で理事長を務めた経験などを買って誘ったのがきっかけでした。「推薦されて引き受けたが、専門的な知識や経験のない自分に務まるのか不安だった」と当時を振り返ります。保護司になってすぐに担当したのはSNS上のトラブルで保護観察になった18歳の少年でした。「優秀で真面目、勉強にも一生懸命な少年だった。ただ、自分のしたことが罪になるという自覚がなかったのだと思う」。面談や家での様子から人とのコミュニケーションが苦手だと感じました。少年にたくさんの人と出会ってほしいと思い、勉強だけでなくアルバイトや友人との交流を積極的にするよう勧めた高橋さん。家族の支えもあり非行を繰り返さなかった少年は、通常よりも早く保護観察を終えました。「期間の短縮を伝えた時、お母さんと彼と一緒に泣いたのを覚えている。彼が立ち直れたのは家族の理解と彼自身の頑張りがあったから」と目を細めます。
▽伴走者の一人として
高橋さんは現在、2人の保護観察対象者を担当しています。面談時には話しやすい空気づくりを常に心掛け、聞き手に回りながら寄り添います。法務省などが開く研修や勉強会にも定期的に参加し、法律や制度、傾聴のテクニックなどの勉強も欠かしません。
保護司として6年間で10人以上を見てきましたが、今でも新しく担当を持つ時は不安や重圧を感じています。それでも活動を続けるのは、保護司になった責任があると感じているからです。
「自分の居場所がある人は再犯をしないことが多い。でも、居場所をつくるのは本人の努力次第。保護司は、それを手伝える大切な役割と思っている」。道を踏み外した人たちが社会に戻れるよう、高橋さんは伴走者としての歩みを進めます。
■協力者募集 更生保護ボランティア
再出発しようとする人たちを一緒に支援しませんか。
《主な活動内容》
□保護司
保護観察対象者との定期的な面談・指導や就労の援助、刑務所や少年院から釈放後の生活拠点の調査など
□更生保護女性会
・更生保護施設などでの食事作りや花生けなどの交流、物品の寄付(布団や雑巾、衣類など)
・防犯教室などを通じた犯罪や非行の防止活動
・子ども食堂の開催
○協力雇用主
保護観察対象者への働く場所の提供や就労生活継続のための指導・助言など
申込み:電話で□厚木地区保護司会更生保護サポートセンター【電話】240-8331○横浜保護観察所【電話】045-201-1844へ。
■7月は犯罪防止強化月間 社会を明るくする運動
犯罪や非行のない、安心で安全な社会を目指す全国的な取り組みです。
○パネル展
期間:7月1~31日
場所:ロードギャラリー
内容:保護司や更生保護女性会の活動を紹介
■みんなで支え見守る社会に
関東学院大学 法学部教授
江﨑 澄孝さん(73)
犯罪や非行の原因はさまざまで、本人の性格や家庭、周りの環境などの影響を受けています。慣れ親しんだ思考や生活から抜け出すのは簡単ではありません。今の環境を抜け出したいと思う強い気持ちと周りの理解が重要になります。一人で立ち直るのは難しいため、社会の中での立ち直りをみんなで支え、見守る保護観察という仕組みが生まれました。
保護司や協力雇用主の皆さんが生活改善や就労支援に尽力していますが、高齢化や人手不足などの課題があります。再犯を防ぐためにまずできるのは、社会に戻ろうとしている人と支援する人がいることを理解し、邪魔せずにそっと見守ること。地域の防犯活動を活発にすることも重要です。立ち直ろうとする人が頑張りやすい環境をつくることが、犯罪などを減らすことにつながるのです。
問合せ:地域包括ケア推進課
【電話】225-2200