文化 小泉今日子さんインタビュー(1)

俳優や歌手、文筆家など多彩な顔を持ち、幅広い活動をする小泉今日子さん。図書館フェスティバルの講演会に向け、本との関わりや読書を通じて得た経験、小泉さんにとっての本と図書館の魅力などを聞きました。

図書館には探している答えがある
家族の中で私は一番読書しない子だった

◆本のこと
▽読書をするようになったきっかけは
家族のみんなが読書好きで、家にはたくさんの本がありました。私は末っ子で、生まれた時から姉たちが読んだ世界の名作集や、漫画を手に取れる環境にあったんです。小さい頃の私は、友達と歌って遊んでばかりで、家族の中で最も読書をしない子だったんですが、留守番をしているうちに身近にあった本に自然と親しむようになっていました。
アイドル時代は、長い時間をかけて全国を回る日々でした。特に地方のコンサートでは、人が集まってしまうのでホテルから出られません。当時はスマートフォンなんかないので、私は本と辞書とノートを持ち歩いて、本ばかり読んでいました。気になったことや意味が分からない言葉、読めない言葉があれば、辞書で調べてノートに書き留めるんです。私にとってそれはすごく楽しい遊びでした。テレビ局などで、知らない人から話し掛けられないための小道具でもありました。

▽これまで自身に影響を与えた作家や本は
たくさんあります。例えば、太宰治の「人間失格」。太宰さんは「暗い」という意見をよく耳にしますが、私にはユーモアのある人に感じられたんです。気になって短編集などを読みあさると、やっぱり思った通りの人でした。自意識過剰な面がありつつ、そんな自分をちゃんと感じながら文学に落とし込んでいる感じがすごく面白いんです。
あとは、同世代の吉本ばななさん。20代の時に「キッチン」で鮮烈なデビューをした時は、何だかすごく誇らしい気持ちになりました。大島弓子さんの漫画も、一生の宝物だなって思っています。高学年を対象とした海外の児童書も、面白い作品が多くてよく読んでいました。

▽本の存在が芸能活動の中で生きたことは
この業界では、本から生まれるものが多くあります。小説や漫画が原作となっている作品に携わることも多いですし、自分の音楽作品のテーマにしたこともあります。
私の好きな作品に、ドイツの児童文学作家ミヒャエル・エンデが書いた「モモ」や「はてしない物語」があります。20代前半の時には、その世界観をイメージした「ファンタァジェン」(ドイツ語で幻想)というアルバムを作りました。

▽本の魅力はどんなところか
読書している私を客観的に見たら、とても静かな時間を過ごしているように見えるでしょう。でも、本の世界で私は宇宙にいるかもしれないし、江戸時代に迷い込んでいるかもしれない。そのギャップが、やっぱり魅力だなって思います。いろいろな時代や架空の国にも、どこにでも入っていける。脳の中だけで旅をする感じが、とても面白いんです。

▽書評やエッセイを書く上で意識していることは
身の丈以上の言葉は使わないようにしたり、書くたびにちょっと趣向を変えたりしています。例えば、「16歳の私」になりきってみたり、猫になりきってみたり、自分なりにテーマを決めて楽しんでいますね。

▽市民の方に手に取ってほしい本は
元々は小説が好きなのですが、最近は知りたいことを本で調べようと思うようになりました。今はSNSでたくさんの情報が流れてきますけど、一人の言葉をそのまま信じていいのかって思うんです。その人が言っている事柄に関する本を探して読んで、ちゃんとした知識を身に付ける。そういう読み方を提案したいですね。不確かな情報もたくさん流れていることを知ってほしいし、それを埋められるのは本だよっていうことはすごく言いたいですね。図書館にはたくさんの本があります。知りたいって思ったことの答えは、きっとこの中にあるはずです。図書館や本を、そんな風に使ってくれたらいいなって思います。

▽図書館の魅力とは
さまざまなことを知ることができ、運命の一冊にも出合えるかもしれない。本が苦手という人には、雑誌や絵本、画集もあるので、気楽に利用してほしいですね。「知っている」ってことは、見えることだし、聞こえること。そういうのが増えてくると、「人生が楽しくなるんじゃないか」って思います。

◆これから
▽2027年のオープンに向けて、図書館を含む複合施設の整備を進めています。新しい図書館に期待することは
人が集まれる文化的施設って、すごくいいと思います。地方の小さな本屋さんでは、作家を呼んでのトークショーや朗読会、読書会、みんなで同じ本を読んで感想を言い合うイベントがたくさん開かれています。図書館に人が集まれる場所を意識的に作って、敷居を低くするのもいいのではないでしょうか。アコースティックなどの音楽が流れてもいいかもしれない。たくさんの人が利用できて、文化の交流が盛んな場所になってほしいですね。そして、市外の人から「あそこの図書館っていいね」って思われて、「私たちもやりたいね」って広がっていったら、すごく誇らしいなって思います。厚木には文化的なところが元からあるので、良い流れができたらもっとすてきになるだろうなって…。
最近、60歳を前にして、厚木が「最後に住む場所になるかも」と考えることがあります。私は「今日子」という名前の通り、今を全力で過ごしています。先のことはまだ考えていませんが、生まれた場所で社会につながる活動や企画を生み出せたらいいなって思っています。