- 発行日 :
- 自治体名 : 福井県美浜町
- 広報紙名 : 広報みはま 令和7年2月号 No.649
■~日本遺産構成文化財が語る海上安全への願い~
歴史文化館では11月7日より、日本遺産認定の原動力となった北前船の歴史を示す構成文化財を紹介する記念展示「美浜に残る北前船の波跡その弐」を開催しており、1月7日からは後期展として展示替えを行いました。
一攫千金を得るチャンスがある一方で、危険な航海の中、日々命の危機に晒されていた船主や船乗りたちは、神仏への信仰を厚く持っていました。
12月号の本コラムで解説した丹生金毘羅神社絵馬群を含め、大阪で制作された多くの船絵馬の背景に海の神を祀る住吉大社が描かれていることも、彼らの信仰心を表しています。
しかし、海上の安全への祈りを伝える文化財は絵馬だけではありません。今回は、船主や船乗りたちの願いの表れである他の資料をご紹介します。
坂尻の橋本家には3枚の幟旗(のぼりばた)が伝わっています。その内1枚は橋本家が所有していた北前船「榮丸」の船名を大きく表しており、船に掲げられていたと考えられます。そして残り2枚の幟旗は淡い緑色に染められる中、小さく「榮丸」の船名と「金毘羅大権現(こんぴらだいごんげん)」、「奉納」の文字が記されています。
金毘羅大権現はその名の通り、全国津々浦々に鎮座する金毘羅神社の主祭神でありながら、同神社自体を指す言葉でもありました。橋本家では金毘羅社を家内で祀っており、この旗は祭礼の際に掲げられたものです。
金毘羅大権現はまたの名を大物主神(おおものぬしのかみ)と言い、さまざまな神徳を有していますが、本宮である金刀比羅(ことひら)神社(香川県琴平町)が海の近くに鎮座する事もあり、往時より海上守護の神様として広く信仰されています。この幟旗は橋本家だけでなく「榮丸」にとっても、この神様が守り神でもあったことを示しています。
早瀬の船主の末裔である岩野家には、お寺で海上安全を祈念した証の木札が伝わっています。
笏(しゃく)のような形の木札には海上安全を祈願する文言と「喜昌丸」の船名に加えて「龍澤山善宝寺」とこのお札が授けられたお寺の寺号が墨書されています。この善宝寺は、山形県鶴岡市に所在する曹洞宗の古刹であり、航海の守り神として龍神を祀っています。喜昌丸が加茂港に寄港した際、船主たちがわざわざ祈祷を受けに善宝寺に赴き、授けられたのがこの木札なのです。
このように、さまざまな構成文化財は北前船に関わる歴史を伝えるのみではなく、船主や船乗りたちの心意気も我々に語ってくれます。
現在開催中の後期展では、今回ご紹介した幟旗等の貴重な資料を展示しておりますので、是非足をお運び頂けましたら幸いです。
(美浜町歴史文化館)