- 発行日 :
- 自治体名 : 滋賀県守山市
- 広報紙名 : 広報もりやま 令和7年6月1日号
■伝統の技は絆を育んで会得
もりやまの鷹匠(たかじょう)・長谷川雄大(はせがわかつひろ)さんとパートナーのハリスホーク
山はないけれど、豊かな森や自然に囲まれた守山には、伝統の技を仕事にする「鷹匠」がいます。
今回は、鷹匠として活動している長谷川雄大さんと、パートナーの鷹(ハリスホーク)を取材しました。
▽和歌山の師匠の元へ通い手探りの飼育、訓練で
水保町のある企業に「鷹事業部」という変わった仕事場があります。その名の通り、鷹をパートナーに害鳥対策などを請け負っています。
長谷川さんは、鷹事業部で「鷹匠」をしています。顧客からハトの被害を相談されたことがきっかけとなり、社長の一声で立ち上がった事業部でした。そこで、守山初の「鷹匠」に指名されたのが、村山広明(むらやまひろあき)さんと長谷川さんの2人でした。
当時を振り返り、「動物は全般好きだけれど、特別に鳥が好きなわけではありませんでした」と長谷川さん。飼育の方法も訓練の方法も手探りで、師匠のいる和歌山県まで教えを請いに通っていたそうです。初めて飼育したパートナーは3歳の成鳥で、ほぼ野生というやんちゃな子だったとか。絆を少しでも深めようと、毎日自宅に連れ帰って、ひたすら「据(すえ)」と「据まわし」の訓練をしていたそうです。家族の反応は微妙でしたが…。
それから毎日訓練を続け、約1年後に「鷹匠」としてデビューしました。
▽相棒のハリスホークと心配して喜んで絆深め
飼育する鷹も、少しずつ増えていきました。現在は8羽のハリスホークを飼育しています。1羽か2羽を飼育する鷹匠が多い中ではかなりの多頭飼いです。理由は、暑い夏に鷹の負担を減らして害鳥対策をするため。
鷹は自由猟具とされていますが、羽が折れたり足をけがしたり、長谷川さんをとても心配させる生命ある生き物です。
鳥小屋の掃除に体重測定、体調管理、お散歩と訓練が日課ですが、仕事中でなくても「けがをしていないかな」と気になって、しょっちゅう飼育小屋をのぞいてしまうといいます。
うれしいとき、怒っているとき、リラックスしているとき、甘えているとき、ご飯がほしいとき…鳴き声やしぐさで鷹の気持ちもわかるようになりました。それだけに、自分が育てた鷹が現場で害鳥を追い払う雄姿を見ると「どや、うちの子すごいやろ」とうれしくなるそうです。
▽優美な飛翔と果敢(かかん)な雄姿 優しく育て、仕事は頼もしく
鷹の飛翔する優美な姿と、獲物を追う雄姿は、古くから多くの人を魅了してきました。害鳥を追い払うだけでなく、訓練を見学したいというファンもいるとか。市スポーツ協会が昨年12月に主催した「びわこ地球市民の森リレーマラソン」でも鷹や梟(ふくろう)とふれあえるイベントの依頼を受けました。
ハリスホークという種類の鷹は、人を群れの一員と認識して懐いてくれるので「空飛ぶ犬」とも呼ばれていますが、本質はやはり猛禽類(もうきんるい)。足のかぎ爪は20~40kgの力で獲物をつかむことができ、鳶(とび)のような雑食性ではなく、肉しか食べないグルメでもあります。普段は優しく、仕事では頼もしい愛するパートナーを自慢したい一方で、参加者や見学者に万一があり怖い思い出にならないよう配慮は欠かせません。
▽鷹匠4年目の春 鷹の魅力と仕事を広げたい
この春、「鷹匠希望」の松尾湧斗(まつおゆうと)さん(18歳)が北海道から長谷川さんの元に就職(弟子入り)しました。松尾さんはパートナーのククと一緒に、師匠の教えを受けながら仕事や訓練に励んでいます。
予想もしていなかった縁から「鷹匠」となって4年目。今も和歌山県の師匠に相談することもありますが、わが子のようにパートナーの鷹たちと心を通わせ、害鳥を追い払う仕事にもずいぶん慣れてきました。取材で訓練に同行した時も、散歩をしながら一羽ずつの性格や人慣れの様子を丁寧に観察したり、話しかけたりしていました。
長谷川さんは「今まで夢中でやってきましたが、かけがえのないパートナーの鷹とともに行う害鳥対策は、景観にも環境にも優しい方法だと思います。鷹の魅力と鷹匠の仕事を、多くの人に知ってもらえたらと思っています」と、グローブに乗せた鷹を見つめながら、語りかけるように話していました。
■鷹匠の豆知識
▽鷹匠とは
猛禽類(もうきんるい)の鷹をパートナーに、高度な技を披露したり、害鳥を追い払ったりする日本の伝統的な職業です。「鷹狩り」といわれるように、もともとは狩猟を目的としていたので、現在も自由猟具の一つとされています。
▽ハリスホーク(モモアカノスリ)
日本の鷹は飼育が禁止されているため、海外原産の鷹です。単独で狩りをする鷹が多い中で、数羽で群れを作って狩りをする種類の鷹。人間も群れの一員と認識できるため「空飛ぶ犬」と呼ばれることもあります。
▽専門用語
・据(すえ)…専用のグローブに乗せる
・据まわし…専用のグローブに乗せて歩く(散歩)
・振替…人から人に渡る
・わたり…枝木などの障害物から人に渡る