文化 【特集】倉吉に伝わる怖い話(1)
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- 発行日 :
- 自治体名 : 鳥取県倉吉市
- 広報紙名 : 市報くらよし 2025年8月号
日本の夏の風物詩に「怪談」があります。一説によれば、江戸時代の芝居役者が幽霊が登場する怖い話を夏に演じたのが最初だとか。人間の生理反応として、恐怖を感じると肌寒さを感じるので、暑いときに怖い話を見るのは理にかなっているようです。皆さんも、倉吉に伝わる怖い話を聞いたりイベントに参加したりして、暑い夏を楽しくのりきりましょう。
■円谷の狐
昔、円谷に意地悪で人を化かすに上手な「小算盤(そろばん)」という狐がいた。
ある夜、大原の人が用事でおそくなって倉吉から帰ってきた。円谷と大原の間の川には橋がかけてなかった。若いきれいな女が、川岸をうろうろしている。
「どうして渡らないのですか」
「この川が恐ろしくて渡ることができないのです」
「それでは、私がおぶってあげましょう」
女を負うて川の中ほどに来ると、とつぜん大きな舌で、ほうべたをベロッとなめられた。あっ、と思って、右を向くと左の頬をベロリ、左を向くと右の頬をベロリ。そこで、女をふりはなして逃げようとしたが、どうしてもはなしてくれない。ようよう向う岸にたどりつくと、女をすてて、土手にかけ上がった。五~六人の者がたき火をしていた。ほっとして、
「今、川の中で女に頬をなめられ、驚いて逃げてきたところです。助けて下さい」
「ほう、どれくらいの舌だった」
「そうだな、これくらいはあったかな」
と両手で舌の大きさをしてみせた。
「ふん、これくらいか」
そういって、五、六人が一度にうちわくらいの舌をベロッと出して見せたので、男は「きゃっ」と叫んで走って帰った。
※本文は原文のまま
『倉吉市誌』より倉吉市/発行
■長谷寺の絵馬
むかし、倉吉の鍛治町裏から余戸谷町にかけて一帯は田んぼであってな。
あるとき、田んぼの稲が黄色にみのって、穂がたれるころになるとなあ、何者だか知らんもんに穂が食い荒らされるだっていや。百姓達は不審に思って調べて見るとな、とっても強い歯で食い荒らされておるがな。
―イノシシではなさげなし、そうかといって、サルやウサギでもない―
とあれこれと百姓たちは考えたけど、これ以上稲を食い荒らされんやあに、何者者もんもか正体をつきとめたらあかいと夜番を始めたがな。
そして、夜もだいぶんふけたころに、突然、バサッと音がして何者かが田んぼに飛びこんできただって。百姓達はびっくりしてにげかけたけど、元気を出してように見るとなあ、大山(おおやま)のようなもんが、百姓たちのさわぎにすばやくにげて行っただって。
あくる朝になあ、ように田んぼを調べてみると、どうも馬の足跡らしいもんがあるがな。その跡を追って行くと長谷寺の山門のところで、ぱったりと消えておってその先がわからん。
百姓たちは、あきらめようと思ったけど、どうしてもあきらめきれんで、
「今度でたら何者だらあと、鉄砲で打ってやるぞ」
といきまいて、夜になるのを待っただって。
やがて夜もふけると、やっぱり稲を食いに現れてな、かたっぱしから食いはじめたがな。
百姓は用意しておった鉄砲で、大山のようなもんにむかって、ズドン、ズドンとうっただって。
たしかに手ごたえはあったようだったが、一声も鳴かずに、風のように打吹山の方へにげてしまっただっていや。
あくる朝になって、百姓たちは昨夜(ゆうべ)のくせもんがにげた方向を探すと、血が落ちとって、そのあとをたどっていくと、長谷寺の山門をくぐって、本堂に奉納された一つの絵馬の前足から血が落ちておるがな。ようにみると馬のヒヅメの上の方に鉄砲で打たれた穴があいとるではないかいな。
百姓たちはびっくりぎょうてんして、長谷寺の和尚さんになあ。
「あの馬は、毎夜絵から抜けだしてな、わしらが作った稲を食い荒して困っとりますけえ、なんとか手綱を書きこんでつかんせえなあ」
とたのんだだって。
和尚さんは、百姓のたのみをきかれてなあ、さっそく手綱をかきつけられるとなあ、それからは、二度と絵からぬけでんやあになり、田んぼも荒らされんようになっただっていや。
※本文は原文のまま
『倉吉の民話集』より倉吉博物館/編集・発行
問合せ:市立図書館
【電話】47-1183
【FAX】47-1180