しごと おかえり、関鯨丸。(1)

令和6年12月17日、世界で唯一の捕鯨母船・関鯨丸が、初めての漁を終え、無事、母港・下関に帰ってきました。
関鯨丸は、30年以上にわたり日本の捕鯨を支えてきた日新丸に代わる船として建造され、令和6年5月に下関港を出航。合計6回の漁で、ニタリ鯨175頭、イワシ鯨25頭、そして、7月に新たに捕鯨枠に加えられたナガス鯨30頭を捕獲しました。
母船式捕鯨をめぐる状況が大きく変わった令和6年、捕鯨に関わる皆さんの環境はどう変化したのでしょうか。
今回は、下関港に停泊している関鯨丸と下関漁港に停泊している捕鯨船・勇新丸、そして、皆さんに鯨肉を届ける方々を取材しました。

■母船式の捕鯨?
令和元年7月に商業捕鯨として再開された日本の捕鯨。捕獲対象の鯨種を定め、厳格な資源管理の下、100年捕っても資源量に悪影響を与えない頭数を捕獲しています。
捕鯨の方法には、「母船式捕鯨」と「基地式捕鯨」があります。
母船式捕鯨は、船内に冷凍工場がある捕鯨母船と、鯨を捕る捕鯨砲が付いている捕鯨船が船団を組んで、操業します。その船団の中心となるのが、関鯨丸。勇新丸が捕った鯨を船内に引き揚げ、鯨の解体・箱詰め・凍結までを海の上で行います。

(写真)水産庁HP「捕鯨をめぐる情勢」より
※写真は本紙参照

■母船式捕鯨の流れ
(1)探鯨
双眼鏡を手に全員で探す。
鯨を見つけると、捕れる鯨種かを丁寧に確認。

(2)追尾
甲板長の号令の下、船を鯨の方へ。砲手が撃ちやすい場所へ船を動かす。

(3)捕獲
砲手のタイミングで捕鯨砲を発射。45キロの銛が鯨の急所を一撃で射貫く。

(4)渡鯨
捕鯨船が捕った鯨を捕鯨母船へ。

(5)引揚
鯨の尾にチェーンを巻き、揚鯨ウィンチでスリップウェイから引き揚げる。
個体の状況を見極めながら、大包丁を使い、皮、肉、骨に切り分けていく。

(6)解体
個体の状況を見極めながら、大包丁を使い、皮、肉、骨に切り分けていく。

(7)加工・整形
熟練した職人が各部位に包丁を入れていく。製品をベルトコンベアで搬送。

(8)保管
オゾン殺菌し、脱気包装した製品を箱詰めして、保冷コンテナへ。

(9)出荷
大きく開くサイドハッチ。大型のトレーラーが出入りでき、搬出もスムーズ。

■捕る人
勇新丸・船長[32年目]
槇 公二さん(下関市在住)

操業中は船長も含め、船の一番高い所にあるトップマスト、アッパーブリッジなどの見張り台に上がって、全員で鯨を探します。
発見したら、左10度、4マイルというように、位置を正確に捉えます。日頃の探鯨で感覚を鍛えているので、角度は1度単位、距離も0.1マイル単位で分かります。
捕れる鯨種だと分かったら、砲手は砲台へ移動。甲板長の号令の下、追尾して捕獲します。
ナガス鯨を捕るようになって捕鯨船から母船への渡鯨のやり方が変わりました。ナガス鯨は、イワシ鯨の1.5倍~2倍と大型なので、エアーランスという機器を使って、鯨が海に沈まないように空気を体に流し込む作業を行い、母船に渡します。

※1マイル(海)…約1.9km

■日新丸から関鯨丸へ
令和6年に竣工した関鯨丸には、どのような特徴があるのでしょうか。
ここでは関鯨丸の船員さんや鯨肉を扱う事業者さんにインタビュー。引退した日新丸と比べながら、その最新鋭の設備などを紹介します。

■さばく人
関鯨丸・製造手[28年目]
篠田 尚浩さん

日新丸では、屋外の甲板上で解体・加工していました。関鯨丸になって、屋内の広いスペースで解体・加工できるようになったことで、全体を見ながら無駄のない作業が可能になりました。
雨などの影響も無く、一連の作業を円滑に行えるようになり、鯨肉の品質の向上につながったと実感しています。

■整える人
関鯨丸・機関長[30年目]
古賀 喜政さん(下関市在住)

まずは音。電気推進船になったことで機関室内が静かになりましたね。ディーゼル式だった日新丸に比べると主機の音がしない。ごう音の中で仕事をしていたので、だいぶ耳が悪くなったものです。
温度も変わりました。ボイラーがないので、40度以上あった室温が32度ぐらいに。以前は4時間で2〜3回シャツを着替え、汗で貼り付いたパンツがよく破れていました。

■指揮する人
関鯨丸・船長[25年目]
北嶋 晃宏さん

関鯨丸になって初めての航海。機材や配置も変わって、それに伴い作業手順も変わりました。大変な中、皆よく頑張ってくれたと思います。
1カ月ごと6回の漁期に分け、一つ一つの作業を確認しながら、不具合があればその都度直していきました。
大きなけがもなく、船員みんなで無事に帰ってこられたことが、何よりです。

■扱う人
株式会社山賀・製造部チーフ
山賀 和磨さん

商業捕鯨が再開された令和元年7月から、鯨肉の加工・販売を始めました。さえずり(舌)など取り扱いが難しい部位の加工にも挑戦しています。
毎年、捕鯨母船が漁の最後に持ち帰るイワシ鯨生肉を市場に上場する際に、加工を請け負っていますが、
令和6年の鯨生肉の質は格別でした。保管状況が良く、肉の劣化が少ないのだろうと思います。

□関鯨丸基本データ
全長:112.6m
船幅:21m
総トン数:9,299t
航続距離:7,000カイリ

(1)解体スペース
(2)スリップウェイ
(3)機関室
(4)保冷コンテナ・急速冷凍室
(5)船員室
パン立てスペース(ケース詰め)
船長室・操舵室など

(1)解体スペース
日新丸…甲板の上で解体…
関鯨丸…解体スペースが屋内にあるので、天候に左右されない室内での解体作業が可能に。

(2)スリップウェイ
日新丸…35度あった傾斜…
関鯨丸…傾斜角度が緩やかな18度になり、70t級の鯨でも引き揚げられるように。

(3)機関室
関鯨丸…環境に優しい電気推進のための騒音や振動を抑えた発電機。南極海への到達も可能。

(4)保冷コンテナ
日新丸…一つの大型冷凍倉庫…
関鯨丸…船全体の消費電力を抑えながら、40基の保冷コンテナで効率よく冷凍・冷蔵保管が可能。

(5)船員室
日新丸…二段ベッドの相部屋…
関鯨丸…仕事が終わった後は、ビジネスホテル並みの個室でしっかりと休息を。明日への英気を養う。

(6)船籍は「下関」
日新丸…日新丸は東京…
関鯨丸…世界で唯一の捕鯨母船・関鯨丸の船籍は下関。母港も下関!