くらし 長崎県立大学 シーボルト校研究紹介 Vol.55

長与町に立地する長崎県立大学シーボルト校。すぐ近くの大学でどのような研究が行われているかをシリーズで紹介していきます。

◆看護師の“アンラーニングする力”を育む教育プログラムの開発に関する研究
看護栄養学部看護学科
山口多恵教授

みなさん、アンラーニング(unlearning)という言葉を聞いたことがありますか?ラーニング(learning)は、よく耳にしたことがあると思います。英単語の頭に“un”が付くと否定や反意語になることもよく知られています。例えば、lucky(幸運な)に“un”をつけるとunlucky(不運な)になります。しかし、learningに“un”をつけても「不学習」とはなりません。アンラーニングは、時代や環境の変化により有用性を失った知識や技術、価値観、ルーティンを棄却して新しいものを獲得する連続的プロセス1)と定義されています。学んだことを捨てるというのは少々乱暴な表現かもしれませんが、これまで当たり前だと信じてきた常識や方法を疑いもせずに続けることは、時代や環境の変化に取り残され自己成長のチャンスを逃すことになりかねません。

私は、看護師のアンラーニングを促進する教育プログラムの開発に関する研究に取り組んでいます。先人看護師がアンラーニングしてきた例を挙げると、褥瘡(床ずれ)予防に対するケア方法がその一つです。かつて褥瘡予防には円座を用いることが有用とされていた時代がありました。しかし、研究の蓄積により円座は接触面を圧迫し、突出部に虚血を起こすリスクがあるという理由から使用しなくなりました(図1)。このように、以前は価値をおかれていたケア方法が時代とともに有用性を失うこともあります。
図2は、全国の看護師1,099名のデータから明らかにした看護師のアンラーニングのプロセスです2)。このプロセスは、これまで価値をおいてきたこととのギャップに気づき、葛藤しながらも古いものを捨てて新しいことを獲得する認知転換の経過を示しています。これをうまく経ることで時代や環境あるいは状況に応じたケア方法の転換が可能になることが期待されます。先人たちが積み上げてきた看護の歴史を守りながら、患者さんにとって安心安全かつ最新の看護ケアの提供に期待を込めて研究を続けていきたいと思います。
※図は広報紙P27をご覧ください。

本研究は2017年から現在も継続して日本学術振興会の科学研究費助成を受けて実施しています(17K12172~25K14304)。
1)山口多恵,酒井郁子,黒河内仙奈,アンラーニングの概念分析,千葉看護学会誌,23(1),1-10,2017.
2)Tae Yamaguchi, Ikuko Sakai,The unlearning process of senior clinical nurses in rehabilitation wards、Journal of Advanced Nursing,75(11),2659-2672,DOI:10.1111/jan.14050