くらし 長崎県立大学 シーボルト校研究紹介 Vol.56

長与町に立地する長崎県立大学シーボルト校。すぐ近くの大学でどのような研究が行われているかをシリーズで紹介していきます。

◆てんかん・ストレス性鬱病に対する治療法の開発研究
看護栄養学部栄養健康学科
柴崎貢志教授

私は2020年4月に栄養健康学科へ着任しました。栄養健康学科という名称から、栄養や食事のことだけを学ぶ場所と思われるかもしれませんが、厚労省の規定に従い、実は医学系の科目や病気についてもしっかりと学びます。私は着任前の9年間、国立大学医学部で「生化学」を教えながら、1,000人以上の医師の養成を行ってきました。本学でも、この「生化学」が担当科目です。研究は、医学部時代から行ってきた脳機能の解析を継続しています。
恒温動物はエネルギーを駆使して、脳温を一定に保っています。私は、この脳温を常に電気信号に変換し、神経活動を円滑にしている分子を発見しました。この分子は、34℃以上の温度で活性化するTRPV4という温度センサー蛋白質です(2021年のノーベル生理学医学賞の受賞対象となった分子・TRPV1の類縁体)。現在は様々な脳疾患により、脳温やTRPV4がどのように変化するのかを解析し、その知見を応用した独自の治療法の開発を行っています。
震えを伴う部分てんかんの病態では、てんかん原性域に1℃の局所発熱が生じ、この熱がTRPV4の異常活性化を引き起こすことで、神経興奮が異常に増大し、病態を増悪化することを見出しました。現在、この知見を応用して、てんかん原性域を局所冷却する治療器具(下左図)、新規てんかん治療薬の開発を進めています。
さらに最近の私の研究から、ストレスによる心因性発熱が、脳内のTRPV4を異常に活性化し、その結果、神経再生が阻害され、これが引き金となり、鬱病が発症することを突き止めました。(下右図)
現在は、我々の知見を活かした治療薬の開発を進めています。これらを通じて、鬱病による労働者人口の減少に歯止めをかけ、働き手不足の社会問題を解決することを目指しています。
さらに詳しい研究内容は、長崎県立大学細胞生化学研究室で検索し、ご覧下さい。
※図は広報紙P29をご覧ください。