くらし 「大王(だいおう)のひつぎ実験航海」から 20 年“古代と海への挑戦”を振り返る(1)

■一五〇〇年前の石棺輸送の謎に挑んだプロジェクト
◇「大王のひつぎ実験航海」とは
今から一五〇〇年前の古墳時代、宇土・網津産の馬門石(まかどいし)で造られた石棺は、どうやって、どのようなルートで近畿地方の大王(天皇の古い名称)を含む有力豪族の「ひつぎ」として長距離輸送されたのか。
その謎に挑むため、今から二〇年前の夏に行われた「大王のひつぎ実験航海」。延べ七四〇人の漕ぎ手が参加し、宇土‐大阪間の海路約一〇〇〇kmの石棺輸送を再現・検証するという世界的にも類をみないプロジェクトでした。

◇馬門石製石棺の謎
継体(けいたい)大王の陵墓・大阪府高槻(たかつき)市今城塚(いましろづか)古墳(六世紀前半)や推古(すいこ)女帝が葬られた奈良県橿原(かしはら)市植山(うえやま)古墳(六世紀末~七世紀前半)をはじめ、中国・近畿地方では十四基の馬門石製の石棺が確認されています。
このことを地道な石棺研究で明らかにした市職員(当時)の髙木恭二さんは、古墳時代における石棺輸送の実態解明を目指して実験航海を発案。多くの賛同者を得て、平成十六年(二〇〇四)四月に考古学等の研究者で組織する石棺文化研究会、宇土市の地域おこし団体・熊本県青年塾、読売新聞西部本社、宇土市の四者で構成される「大王のひつぎ実験航海実行委員会」が組織されました。

◇「大王のひつぎ」海を渡る
平成十六年の夏から一年かけて、実験航海で使用する重さ約七トンの馬門石製石棺や古代船「海王」(かいおう)、石棺積載台船「有明」・「火の国」等を復元。航海をサポートする現代船三隻とともに、平成十七年(二〇〇五)七月二四日、目的地の大阪南港(大阪市)を目指して宇土マリーナを出航しました。会場に駆けつけた五〇〇人を超える人たちは、「頑張れ!」と大きな声を上げながら手を振って盛大に船団を見送りました。
有明海、玄界灘、瀬戸内海を経て、大阪南港到着までに船団が立ち寄った港は計二二ヶ所。船団は各寄港地で温かく迎えられ、和やかな雰囲気のなか歓迎会や交流会が催されました。しかし、航海中は困難な場面の連続。山口県下関市の水産大学校端艇(たんてい)(カッター)部を中心とする漕ぎ手の学生たちは、時に荒波の中、激しく揺れる「海王」を懸命に操船しました。

◇遥か一〇〇六kmの大航海
実験航海では、順風、逆風、逆潮等の様々な条件で航海データを取得しました。平均速度は、「海王」単船で四・三ノット(時速約八・〇km)、石棺を載(の)せた「有明」や「火の国」を「海王」が曳(ひ)いて二~二・五ノット(同約三・七~四・六km)の速度が得られました。
宇土マリーナ出航から三四日目にあたる八月二六日の夕方、ついに大阪南港に到着。準備期間を含めて約三年にわたる「古代と海への挑戦」は、大成功で幕を閉じました。
※実験航海の詳細は、市ホームページ「宇土市デジタルミュージアム」をご覧ください。

■「大王のひつぎ実験航海」20周年記念講演会・パネルディスカッションを開催!
継体大王と日本古代史上最大の内乱「磐井の乱」をテーマに講演会を開催します。あわせて「大王のひつぎ実験航海」関係者によるパネルディスカッションを行います。ぜひご来場ください!
日時:令和7年10月18日(土) 開場 13:30 開会 14:00~(16:00終了予定)
会場:宇土市民会館 大会議室 ※入場無料(事前申込不要)
講演:「水運王継体と磐井の乱」
[講師]森田克行(高槻市文化財アドバイザー)
パネルディスカッション:「古墳時代の船と石棺輸送」
[パネリスト]森田克行(上掲)・髙木恭二(宇土市文化財保護審議会委員長)下川伸也(国立研究開発法人水産研究・教育機構水産大学校校長)
[コーディネーター]藤本貴仁(宇土市教育委員会文化課長)
主催:(一社)熊本県青年塾
共催:大王のひつぎ保存委員会
後援:宇土市・宇土市教育委員会