- 発行日 :
- 自治体名 : 宮崎県三股町
- 広報紙名 : 広報みまた 2025年6月1日号
■早速駆け付けてくれたその、気持ちがうれしい。
○人の世話になるのは、とても苦しい
今村さんは、10年ほど前から難病により手足のしびれが強くなってきたといいます。山下さんと出会った後の、ある日のことでした。体調が優れず、どうしても洗濯物を取り込むことができなかったため、山下さんに電話で相談しました。すぐに駆け付け、洗濯物を取り込んでくれた山下さん。今村さんは「早速駆け付けてくださって…感謝ですね、本当にうれしかったですよ」と振り返ります。
しかし、助けを求めることに、とてもためらったといいます。「ご家族と生活している山下さんに連絡して、本人やご家族に迷惑じゃないだろうか…でも、このままだと雨が降って洗濯し直さないといけなくなる…どうしたものだろうか…と、とても悩んだんです」と話します。
○私は、自分でできるんです
日頃から自分でできることは、自分でしたいと考えている今村さん。「人の力を借りてばかりでなく、自分の力で生きたいんです。これまで、商売を通じて人のお世話をする人生でしたから」。金融機関や役所での手続きの際「本日、ご家族はいらっしゃいますか」と聞かれることが、すごく悲しいといいます。「窓口の人が、私の周囲を見回すんです。どこかに家族はいないか、と。私は自分で手続きできます。自分でできるんですよ」と話します。そんな今村さんは「人の世話になることがどれだけ苦しいことなのか、思いどおりに体を動かせなくなってから、特に感じるようになりました」と話し、悔しさに唇をかみ締めます。
○心根の優しい人に出会えた
今村さんは日常生活でサポートが必要な時があり、山下さんをはじめ多くの人に支えられています。「三股に来たからこそ、民生委員の、心根の優しい山下さんに出会うことができました。また、主治医の先生やデイサービスの職員の皆さんにも、本当に感謝しています。おかげさまで1人暮らしの中にも幸せを感じています。これからも頑張って生きていきたいです」と話します。
下ページでは、そんな今村さんと出会い、気に掛け、時に手を差し伸べてきた元・民生委員の山下さんの思いを探ります。
■「人生の先輩」としてついて行きたい。
○活動にやりがいを感じていたが
約9年間の活動の末、山下さんは民生委員の職から退くことを決断しました。民生委員としての活動と私生活を両立させる必要があると考えていた山下さん。「民生委員の活動には、やりがいを感じていたんです。でもね、年齢を重ねる中で、少しずつ体に変化が出てきて…。例えば、夜間の運転に不安を覚えるようになったんです。これからは自分の健康管理をしていきたいと考えました」と、退任を決めた思いを話します。
○相手が納得するまで、お付き合い
「民生委員だったからこそ、いろいろな人に頼りにしてもらえました」と話す山下さん。長らく福祉施設で働いていたこともあり、地域の人の支えとなることにやりがいを感じていたそうです。
民生委員としての活動を終えてもなお「今村さんだけでなく、民生委員として活動する中でたくさんのお友達ができ、支えてもらいました。私は、相手が納得するまで、最後までお付き合いしたいと思っていますよ」と笑顔で話します。
○「遊び友達」とは異なる偶然出会った、2人の関係性
山下さんは、今村さんから電話がかかってくると安心するそうです。民生委員としての活動は終わっても、当たり前のように気に掛けている様子です。「今、温泉に来ています」などとかかってくる電話は、何か特別な用事があるわけではありませんが、2人をつなぐ重要な役割を果たしているようです。
「今村さんのことを気に掛けて、数回ですが生活の手助けをしていたときに『あなたは、私のお友達』と言ってくださったんです」。山下さんは、9年間の民生委員としての活動を振り返る中で、今村さんに言われた言葉を大切にしています。
山下さんは今村さんに対する思いを、次のように話します。「今村さんは『人生の先輩としてついて行きたい』と思える人なんです。人との接し方や年齢を感じさせない元気なお姿など、学ぶべきことが多いんですよ」。今村さんは、山下さんの存在を「友達」という言葉で表現しました。しかし、この2人の関係は単なる「友達」とは異なる関係があるように思えます。
■自らの意思で、力で、生きていく
約20年前の今村さんの写真(本紙参照)。当時は、愛車だった国産のスポーツカーに乗って、経営していた民宿や美容室を移動していたそうです。
自宅の壁に飾っているこの写真は「人の力を借りてばかりでなく、自分の力で生きたい」との思いの表れなのかもしれません。
■あなたは、私のお友達
今村さんが、山下さんにかけた言葉です。それは単なる「友達」ではなく、支え合って生きていく仲間として〝つながり〟を大事にしたいからこそ、かけた言葉です。