くらし 「独居の時代」を越えて行く(3)

○誰かを支える山下さんも、ほかの誰かに支えられている
平成27年から、民生委員として活動してきた山下さん。前任者から引き継いだとき、前任者と同じように活動できるだろうかと不安を感じてました。
「前任の方は、地域の家庭を訪問するだけでなく、暑い日も、寒い日も、毎朝のように子どもたちの登校を見守っていらっしゃいました。そんな姿を見ていたからこそ、自分に民生委員が務まるのか、とても不安でした」と当時を振り返ります。そんな山下さんをそばで支えてきたのは、夫の俊一(としかず)さん(82)。民生委員への就任に理解を示してくれた俊一さんに不安を打ち明けると「俺が子どもたちの登校の見守りをするから、大丈夫」と言い、日々路上に立ち、子どもたちを見守っていたといいます。
退任後、民生委員として社会福祉の増進に貢献してきたことに対し厚生労働大臣から届いた「感謝状」を手にした山下さん。これまでの活動と俊一さんへの感謝を胸に「この表彰状は、夫に渡したいです。夫の支えがなかったら、民生委員としてここまで活動できませんでしたから」と話しました。

○人と、支え合って生きてきた
山下さんは、夫の俊一さんのほか、多くの友人たちと支え合いながら生活してきたといいます。友達との関係を「昔から、子育てのことや生活のことなど、支え合って生活してきました。昨日はお友達数人と、私の自宅でこの折り鶴を作っていたんですよ」と話し、複数の折り鶴が連なる、自作の「連鶴」を笑顔で見せてくれた山下さん。夫の俊一さんをはじめとする家族、地域に住む友達など、多くの人たちに囲まれ、支え合っています。
人と支え合う価値を知る山下さんだからこそ、民生委員として活動する中で出会った、多くの人たちの支えとなることができたのかもしれません。

○連綿と続く、人と人とのつながり
今村さんが本町に引っ越して来て、約1年。2人の間には、確かに育ちつつある〝小さなつながり〟があります。それは「いつも一緒にいる」「心が通じ合っている」などとは、少し異なるものです。
山下さんは、高齢の今村さんを気に掛け、さらに「人生の先輩としてついて行きたい」とまなざしを向けます。今村さんは、自身を気に掛け、ときに手を差し伸べてくれる山下さんに対して礼をもって接し、感謝の気持ちを忘れません。
これまでに紹介したのは、夫に支えられ民生委員としての活動を続け、地域の人と支え合いながら生活してきた山下さん。そんな山下さんに支えられる今村さん。そして、人生の先輩として、山下さんに〝背中〟を見せ続ける今村さんの姿です。垣間見たのは、誰かと誰か、さらに次の誰かへと連綿と続く、与え・与えられる、あるいは、支え・支えられる関係性です。「これからは、お友達としてできることは私に、ね?」と笑顔で語りかける山下さん。今村さんは、満面の笑みを浮かべました。

■これからは、お友達として
民生委員を退任しても支援してきた人たちを気に掛け、ときに手を差し伸べる山下さん。今村さんの話に〝うんうん〟〝そうですか〟と丁寧にうなずき、耳を傾けます。

■民生委員って?

◆INTERVIEW
三股町民生委員児童委員協議会
会長 下村 勉(しもむらつとむ)さん

○「見守る・支える・つなげる」活動を
「民生委員・児童委員」になり15年が経ちました。現在は会長として、そして1人の民生委員として活動しています。
私たち民生委員に寄せられる相談の中で「子ども・家庭」や「高齢者」に関するものが特に多く、特に高齢者は1人暮らしで身寄りがない人の相談などがとても多いです。人によってそれぞれですが、独居高齢者は認知症を患いやすく、その進行の速度が速いようにも感じています。
地域や住民の、複雑化するさまざまな問題を解決するためには、民生委員だけで対処するのではなく、ときに公民館、地域団体や高齢者サロンなどが連携することが重要だと考えています。そして、現在欠員が出ている地区もあり、民生委員のなり手確保も急務です。大変なこともありますが「あんたに相談して良かった」と声をかけてもらえるなど、やりがいのある役割です。
地域の人への愛情をもち、民生委員として「見守る・支える・つなげる」活動を行い、誰もが安心して暮らせるまちにできればと考えます。