くらし 【特集】伊豆沼・内沼ラムサール条約登録40周年 共生style(1)
- 1/30
- 次の記事
- 発行日 :
- 自治体名 : 宮城県栗原市
- 広報紙名 : 広報くりはら 令和7年8月号
市の東部に位置する伊豆沼・内沼。特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地を保護するラムサール条約に登録され、来月で40年を迎えます。
合わせて491ヘクタールの面積を誇る2つの沼は、鳥や昆虫、植物の豊かな生物の多様性があり、国の鳥獣保護区や天然記念物にも指定されています。
今月は、伊豆沼・内沼のこれまでの歩みとこれからの未来を考えます。
■Interview
伊豆沼・内沼自然保護協会
会長 川嶋 保美 さん(若柳南大通)
◆人と共生する沼の意見対立
マガンやハクチョウなど渡り鳥の飛来地として全国的に知られる伊豆沼・内沼。今から47年前の昭和53年、国からラムサール条約登録の打診を受け、伊豆沼・内沼に隣接する3町では、受け入れるべきか人々の意見が大きく割れました。当時の様子を知る川嶋さんに伺いました。
◇人よりも鳥が大事なのか
今から60年ほど前、私は趣味の写真撮影を通して、ハクチョウや沼の自然に魅了され、自然保護活動を始めました。
活動の根底にある思い、それは、貴重な自然を守り、野鳥たちが安心して暮らせる場所にしたい、というものです。
当時、伊豆沼・内沼は漁業が盛んで、数十軒が沼の漁業で生計を立てていました。沼では、漁船が航行することで渡り鳥が驚き、一斉に飛び立つことがありました。そのため、渡り鳥が羽を休める場所と漁をする場所を線引きしてもらうよう、漁師の下へお願いに行きました。すると、必ず言われる言葉がありました。「こっちは生活が懸かっている。それでも鳥が大事なのか」。この言葉はとても重く、私は、お願いをする以外に言葉が見つかりませんでした。また、これは長年、渡り鳥に稲穂を食べられる食害を受けてきた米農家にも当てはまりました。
ラムサール条約登録に向け検討が続く当時、沼に隣接する旧築館町と旧若柳町(共に現栗原市)、そして旧迫町(現登米市)では「人が大事か、鳥が大事か」、町民の意見が対立し、特に米農家などから強い反対がありました。それが要因で北海道でタンチョウの生息地として知られる釧路湿原と同時に条約登録を目指していた、伊豆沼・内沼は登録を見送りました。
以降も数年にわたり検討が続き、渡り鳥による食害補償条例の制定が進んだことで、米農家の理解も広がりました。また、環境庁(現環境省)は、3町で組織する伊豆沼管理協議会が提出した、沼の水質保全対策などの要望を聞き入れ、登録に向けた理解が得られたとして、昭和60年9月13日、伊豆沼・内沼は、釧路湿原に次いで日本で2番目の条約登録湿地になりました。
この経過は、沼が昔から人と共生してきた証しであり、沼の保全の難しさを物語る出来事でもあります。