くらし 「以心伝心」志木市長/香川武文

■平和の願いを胸に
蝉(せみ)の鳴き声が大きくなり、朝顔や向日葵(ひまわり)、入道雲といった風景に触れながら、今年も本格的な夏の訪れを感じています。いろは親水公園のウォーターパークでは水遊びに夢中な子どもたちの元気な声が聞こえ、それぞれの地域では盆踊りや縁日の準備が進み、志木市にも夏ならではのにぎやかな光景が広がっています。
こうして当たり前のように笑い、夏の日常を楽しめる毎日があるのは、平和な時代に私たちが生きている証。けれど、それが当たり前ではなかった夏があります。8月15日は終戦の日。今年は、先の大戦の終戦から80年という大きな節目を迎えます。
かつて、志木市も戦争による多くの影響を受けました。食糧や生活物資の供給不足の深刻化に加え、激しい物価上昇や経済危機に見舞われるなど、普通の生活が一瞬にして普通ではなくなる戦禍の時代。志木市史によれば、日中戦争期から太平洋戦争期における志木地域の戦没者数は270名にものぼるとされています。
祖国の繁栄と家族の幸せを願いながら、戦禍にたおれた方々、遠い異郷の地で亡くなられた方々。また、各都市での空襲、沖縄での地上戦などにより犠牲となられた方々。今日の平和と繁栄は、そうした戦没者の皆さんの尊い命と、苦難の歴史の上に築かれたものであることを、片時たりとも忘れてはならないと思っています。
また、最愛の肉親を失われ、今日まで癒えることのない深い悲しみに耐えながら、さまざまな苦難を乗り越えて来られたご家族がいらっしゃることも忘れてはなりません。こうした思いを日頃から語り続けてくださっているのが、志木市遺族会の皆さんです。ご家族を失った深い悲しみを抱えながらも、平和の尊さを地域に伝えてくださるなど、志木市遺族会の皆さんのご尽力には深い感謝の念を抱かずにはいられません。
戦後80年となる今年は、志木市遺族会と連携しながら、祖国のために懸命に尽くされた先人の思いを後世に伝え、平和な社会の発展に寄与することを目的とした「戦後80周年平和祈念事業」を11月に開催します。1部では祈念式典をはじめ、作文コンクールの表彰式を行うとともに、2部では戦時中の食事を再現した試食会や子どもたちも参加できるイベントを実施するなど、大人だけではなく子どもたちにとっても平和について考える契機となることを願っています。
平和な時代に生きる私たちが、その礎となった多くの犠牲者と残されたご遺族の思いを決して忘れることのないよう、8月15日の終戦の日には市職員そろって哀悼の意を表し黙とうを捧げます。いつまでも、日々の暮らしの中で平和を守る気持ちを大切にしながら、戦争の記憶を風化させず後世へ語り継ぎ、先人たちから受け取ったこの平和という大切なバトンを、次代へしっかりと手渡していかなくてはなりません。