くらし 〔特集〕これが私の里山ライフ(1)
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- 発行日 :
- 自治体名 : 埼玉県北本市
- 広報紙名 : 広報きたもと 令和7年10月号
~里山とは~
人が住む「里」と山間部の中間に位置する自然のこと。薪や炭を得るために人が手を入れた雑木林等の二次的な自然や、田んぼ・畑なども含まれ、日本の原風景といえる。
北本にはまだ、里山が生きている。
雑木林の木で薪や炭を作り、落ち葉の堆肥で作物を育てる。湧き水をひいて田んぼを耕し、その藁(わら)で草履や縄を作る。
そうした、忘れられつつある「里山」の営みに、新しい価値を見出す人たちがいる。
雑木林は、子どもたちを育む遊び場に。
麦畑は、子どもと大人の居場所に。
昔ながらの田んぼが、贅沢な大人の遊び場に。
かつての知恵は、今の暮らしに便利さとは別の豊かさを与えてくれる。
懐かしの里山から、新たなライフスタイルを生み出す里山へ。「今」紡がれる暮らしの物語が、ここから始まる。
大豆の脱穀の風景――ある年の12月のこと
大豆を手作業で脱穀する現場にお邪魔した。乾燥した大豆の株をブルーシートに広げ、棒で叩いて莢さやから豆を取り出していく。飛び散った豆と莢を手で選別し、ふるいを使って殻や不純物を除去していく。大人たちは黙々と作業し、ときに雑談を交えながら穏やかな時間が流れていた。かつての里山では、きっと当たり前の風景だったのだろう。
問合せ:市長公室シティプロモーション・広報担当
【電話】594-5505
■なぜ、里山には希少な動植物が多く存在するのか?
北本自然観察公園は1992年に北本の里山の代名詞「谷津(やつ)」の自然を残すことを目的にオープンしました。谷津とは、台地を湧き水が浸食してできた地形で、谷は泥が深い湿地となっており、谷の奥からは絶えず湧き水が流れています。昔の人たちは、この湿地に田んぼを作っており、泥深いため田舟を浮かべて農作業をしていました。観察公園に自然発生するヘイケボタルは、もともと水が動かない湿田を生息地としており、対してゲンジボタルは川の流れのあるところに発生します。里山の景観が少なくなってきている現在では、ヘイケボタルのほうがより希少性が高いといえるでしょう。
そのほか、観察公園では54種類のトンボが観察でき、この種類の多さは国内の公園の中でもトップクラスです。ちなみに、日本の古名である「秋津島」の「秋津」とは、トンボのこと。それだけ日本人の原風景にトンボは欠かせないということでしょう。ちなみに観察公園はヘビの種類も多く、埼玉県にすんでいる8種のうち7種が生息しています。
これだけ希少な生き物が多く暮らしている理由としては、里山が湿地→草原→雑木林と連続するエコトーンを形成していることがあげられます。カエルは水辺で産卵し、成体は草原や雑木林で生活します。カエルたちが生きていけるからこそ、これをエサとするヘビたちも生きられるのです。
北本の雑木林を形成するコナラは、氷河期の時代から林を作っていました。それが終わるとコナラは涼しい北部へ移動を始め、関西地方ではシイやカシの林が増えていくのですが、関東地方ではシイやカシが移動してくる前に人間がコナラの雑木林を作り始め、その環境の中で生き物たちが独自の生態系を作り上げていったのです。
観察公園で保護している絶滅危惧種のキンランは、コナラの根に共生するキノコの仲間と栄養をやり取りすることで生育します。里山という人間が作り出した環境だからこそ、生きていけるわけですね。
埼玉県自然学習センター 自然観察指導員チーフ 1級ビオトープ施工管理士 高野徹さん
北本自然観察公園開園当初から自然学習センター職員として働く。好きな生き物はトンボ。Excelで花の絵を描くのが得意。
◇北本自然観察公園/埼玉県自然学習センター
住所:荒井5-200(【電話】593-2891)
開館時間:9:00~17:00
休館日:月曜日(祝日の場合は開館)、祝日の翌平日