くらし 〔特集〕これが私の里山ライフ(4)

■誰もが「大丈夫」と安心できる畑コミュニティをつくる。
◆私の里山ライフ02 だいじょうぶだ村
麦の魅力に取りつかれ、会社員として働きながら農ある暮らしを実践するさとうじゅん子さん。4人のお子さんを育てる母親としての体験から、畑を通した子どもも大人も解放される居場所「だいじょうぶだ村」を作り、人のつながりが生み出す豊かさを実感しています。

◇お金を介さない世界が見たいんです。
お金を払って終わりじゃなくて、手を差し伸べ合ってその後も物語が続いていくような。

「232人のお気持ちが詰まった製粉機ってやばくないですか?」
そう笑うさとうじゅん子さんが見せてくれたのは、クラウドファンディングで購入した石臼製粉機だ。畑コミュニティ「だいじょうぶだ村」の麦を、これで粉にするという。
きっかけは10年前。パン好きが高じて麦に興味を持ち、麦畑をやりたいと地域の人に相談。紹介された地主さんから畑と納屋を借りて4人の子どもたちと麦作りを始めた。初めて育てた「農林61号」のおいしさは衝撃だった。この小麦粉で子どもたちが作ってくれたホットケーキの味は、今でも忘れられない。「ここを家族だけの場にするのはもったいない」と、5年前から“麦まきに来ない?”と人を誘い始め、次第に大人も子どもも集う居場所になっていった。
2年前からは「だいじょうぶだ村」として土曜日をオープンデーに。「村人」たちと畑作業をし、採れたものでごはんを作ったり、地主さんの差し入れや持ち寄った食材等をふるまったりして豊かさを分かち合う。市内外・県外から、農や麦に関心のある人、親子連れなどが訪れる。
「“だいじょうぶだ村”ってふざけた名前だけど、それは本当に“だいじょうぶなんだ”って来た人が思える場にしたいからなんですよね」
さとうさん自身も子育てに悩んだ時期に、村人たちとの触れ合いの中で自分では見えていなかったわが子の良さに気付かされた経験がある。村に来ていた子どもが自分からさとうさんにパン作りを習い、不定期のパン屋さんを始める、ということもあった。誰もが「だいじょうぶだ」と安心でき、自分のやりたいことや好きを見つけられるのが「だいじょうぶだ村」が目指す姿だ。
参加費はなく、お気持ちの金銭や作業等で関わる。納屋の片づけを手伝う人や得意なDIYで関わる人、ふらっと立ち寄る人もいる。
「お金を介さない世界を見たいんですよね。子育てが大変な時期の人がいればここで子どもを見てあげたい。できる人たちで手を差し伸べて、それが難しい人は余裕ができたときに手を差し伸べる。コミュニティ全体で子育てができたらいいなあと思うんです」
製粉機のクラウドファンディングでは、村に来たこともない人や遠方の人、小学生からも支援が寄せられ、無償の優しさに触れて、人の温かさを感じた。麦の栽培を始めてから10年。自分自身が大きく変わったと実感する。
「辛いこともある畑仕事だけど、土を耕し、汗を流すたびに、なぜか心が満たされ、生きる力がどんどん湧いてくるんですよ」
これからの10年も、きっと面白いことが待っている。
「敷地内の元剣道場の使用許可がもらえたんです。昔は剣道を習いに来る子どもで庭が溢れていたそうですよ。そんな賑わいをまた作りたいですね」
元剣道場を片づけている時に古いアルバムや資料を発見した。昔からこの地域には麦畑が広がっていたことを知り、かつての里山の暮らしに、より想いを馳せるように。日本の文化や心も大切にする場を作ろうと呼びかけ、柔道達人の農家さんとつながったり、エアコンや冷蔵庫の提供の申し出をもらったりした。つながりがどんどん広がり、場所の使い方のアイデアも膨らんでいく。
「地主さんが庭の梅でジャムを作ってくれたり、私たちも竹をみんなで切って、それで箸を作ったりしてて。昔は当たり前のようにやっていた“あるものを使ったり、土地の地質や風土を大事にしながら生活に落とし込んでいく”ってこと。それを地域の人たちとシェアしていくのが、北本らしい里山の暮らしなんじゃないかなって思います」

◇さとうじゅん子さん
会社員として働きながら4人のお子さんを育てるなかで孤独な子育てを経験。「ママの休日コミュニティ」や雑木林で子どもたちが遊び育つ「モリトコ」を立ち上げるなど、子どもやお母さんたちの居場所づくりに尽力する。農林61号との出会いをきっかけに、麦栽培を中心とした農ある暮らしを分かち合う「だいじょうぶだ村」をオープン。子どもから大人まで幅広い村人を受け入れる。

問合せ:だいじょうぶだ村の場所等はInstagramへDMで問合せ