- 発行日 :
- 自治体名 : 神奈川県平塚市
- 広報紙名 : 広報ひらつか 令和7年8月第3金曜日号
◆受講生から講師になり通う教室
7月12日午後1時過ぎ、「みんな、そろそろ始めるよ」と声を掛けるのは、大学2年生の中村恋唯(れい)さん。昨年4月から、通年囲碁教室で中・上級クラスの講師を務めています。まちづくり財団が開く通年囲碁教室の対象は、小学生〜高校生。元々受講生だった中村さんは、高校3年生の終わりに、講師の1人から大学生講師の話をもらったそう。「慣れ親しんだ教室なので、大学生になってからも講師として通えるのはうれしかったです」と話します。
◇楽しく過ごせる教室に
同教室で大学生が講師を務めるようになったのは10年以上前から。現在は中村さんを含む2人の大学生講師がいます。2人とも小学生の頃から、同教室に通っていました。
中村さんが囲碁を始めたのは、小学校1年生の時。教えてくれたのは祖父でした。その後、夏・春休みに子ども囲碁入門教室に参加し、小学校2年生で通年教室に通い始めました。「囲碁教室で、同世代の友だちと囲碁を打てるのがうれしかったのを覚えています」と振り返ります。
元受講生として、大人よりも身近な存在で、子どもたちを理解できるのが大学生講師の強みです。「落ち着いていて、大人びている子が多いですが、飽きてしまうと遊びたくなる時間もあります」と中村さん。「指導の方法や対局の組み合わせなど、なるべく子どもたちの要望を聞いて、楽しく過ごせる内容を考えています」と続けます。
◇世代を問わず競い遊べる
年齢に関係なく対局できるのも囲碁ならでは。囲碁の大会など、小学生と大人が当たり前に競います。中村さんは「学校などとは違う、幅広い世代が対等なコミュニティーにいられるのも、他の競技にはない面白さだと思っています」と語ります。
小学生からそのコミュニティーで過ごす中村さんが、本当に「楽しさ」を知ったのは中学生の時でした。「中学生で行き詰まった時期に受けた、講師の指導碁がきっかけで、本当の意味で『楽しさ』が分かりました。何となく打っていた囲碁を、きちんと理解できるようになったんです」。
◇経験がこれからに生きる
「囲碁で培った集中力や先読み力が、大学受験で役に立ったし、私生活でも強みになっています」と話す中村さん。「続けることでいつか役立つ力が付くと思います。楽しみながら、これからも教室で一緒に囲碁ができたらいいですね」と教室の子どもたちに呼び掛けます。
◆囲碁の入り口を広げる
今年の湘南ひらつか囲碁まつりでは、週刊誌で連載中の囲碁漫画『伍(ご)と碁』の関係者を招いたトークコーナーも予定しています。監修を務める囲碁棋士・寺山怜六段に、自身の経験談や漫画の制作に携わる思いなどを聞きました。
◇囲碁というゲームにはまった
漫画に限りませんが、ドラマやゲームなど、囲碁以外の世界で囲碁が取り上げられるのは、本当にありがたいことです。「存在を知ってもらう」というのは、囲碁の普及を考えたときに、ぶつかる一つのハードルなんです。僕の場合は最初から囲碁が楽しかったですし、囲碁というゲームにはまりました。しかし知らない人は、はまる素質があったとしても、楽しさを知る機会がないんですよね。
僕が囲碁を始めた頃は漫画『ヒカルの碁』が大流行していました。小学校の時に通っていた囲碁教室では、漫画がきっかけで始めたという子も何人かいましたよ。作品・物語は人に伝わりやすい、貴重な囲碁の入り口になっていると思います。
◇知らない人でも面白い作品
『伍と碁』の原作者である蓮尾さんは囲碁好きで「世の中に囲碁を広めたい」という思いのある方です。なので監修の話をもらった時は、その気持ちが本当にうれしかったです。
監修の中では、キャラクターらしさが表れる碁を一手一手考えています。碁には打つ人の性格が出ます。考えるのは楽しいですし、それが漫画でも伝わっていたらいいなと思います。物語とのバランスを考えて、囲碁が分かる人も分からない人も、違和感なく読んでもらえるようにしていきたいです。
◇平塚は囲碁を始めやすい
今年の囲碁まつりは、『伍と碁』のトークコーナーや、1,000面打ちなどに参加します。以前も参加しましたが、1,000面打ちは壮観ですよね。屋外であの規模の対局をする機会はまずありません。指導碁のフリーな雰囲気も印象的で楽しかったです。イベントや初心者教室などが生活の近くにある平塚市は、囲碁を始めるのに良い環境が整っていると感じます。始めたいと思っても、気軽に通いやすい教室は身近になかなかないんですよ。一生の趣味になる囲碁の面白さが、どんなきっかけでも皆さんにも伝わったらうれしく思います。
○寺山怜六段
平成2年12月20日生まれ。東京都出身。藤澤一就(ふじさわかずなり)八段門下。小学校5年生の時に祖父に教わり囲碁を始める。平成19年夏季に入段しプロ棋士になる(20年度採用)。令和2年、6段に昇段。漫画『伍と碁』で、井山裕太王座とともに監修を務める。日本棋院東京本院所属。
○漫画「伍と碁」
原作・蓮尾トウトさん、漫画・仲里はるなさん。講談社の週刊ヤングマガジンに連載中で、単行本は2巻まで発売中。原作者の蓮尾さんは囲碁好き。囲碁ファンも囲碁を知らない人も楽しんでもらいたいという思いが込められている作品。