くらし 《特集》私は私らしく、認知症と歩む(5)

■認知症の人だけでなく全ての人にやさしいまちへ

◆認知症介護の経験を未来へつなぐ
長澤由美子さん
市介護家族の会代表
認知症の義母と実父を介護した体験を基に、介護当事者に寄り添い続けています。家族の声を施策に届けGPS購入等費用助成などが実現。

○当事者の声が変える未来
義父のがんの看病と認知症の義母の介護、さらに赤ん坊を含む3人の子育てが重なり、今で言うダブルケア、トリプルケアのような大変な状況にいたことがあります。
その後、数年経ってから実父が認知症になりました。その後、実母もがんを患い、その看病も重なりました。
父は元自衛官です。台風が来るとアンテナを守るために屋根に上がり、川が増水すれば見に行ってしまいます。認知症になった父は、万歩計型のGPSをすんなりと着けてくれました。本人がマジックで「GPS」と書いていたので、何なのかは分かっていたのかもしれません。
令和7年度から始まったGPS機器等購入費用助成は、当事者の声が行政に届いて実現しました。二次元コードから家族に連絡できる「どこシル」も現場の声から導入されました。何年もかかるかもしれませんが、当事者の声を行政に届け、施策につなげていくことが介護家族の会の役割の一つだと思っています。

○頑張り過ぎなくていいんです
私が自分の経験の中から学んだ介護のコツをお話します。認知症の人から見たときに、介護をする側が「良い人」「優しい人」に思われるように振る舞うと、介護が楽になります。言いたくなる気持ちをぐっとこらえて、「あらあら」と受け流す。セーターの上にブラウスを着て、一番上が肌着というちぐはぐな格好でも「まあ、いいか。今日はこのままデイサービスに行こう」と思えるくらいの「割り切り」が大事なんです。
私自身、義母の介護より実父の介護の方が精神的に辛かったです。
「もう少し分かってくれてもいいのに」という期待が出てきてしまうんですね。距離感が近いほど、イライラしてしまうものなんです。
それと、周りの人や自分自身の「こうするべき」に振り回されないでください。「自分の親だから自分で看るのは当たり前」。そんなことありません。上手にサービスを目いっぱい使いましょう。
皆さん、本当に頑張っているんです。だから私は「一生懸命やりすぎですよ」と声を掛けてあげたいです。介護している人が、体や心を壊してしまっては、元も子もありませんからね。

◆「おかえり」が言えるまちへ〜介護家族の会から生まれた取り組み〜
○GPS機器等購入費用助成
認知症で行方不明になる可能性がある人を対象に、GPS機器(および付属品)の購入や貸与の初期費用を最大1万円助成します。

問合せ:介護保険課
【電話】995-1821

○どこシル伝言板(服などに貼る二次元コード)
衣類や持ち物に二次元コード付きシールを貼り、発見者が二次元コード読み取ることで通知できる仕組みです。伝言板を使うため、個人情報を開示せずに、発見者と家族をつなぎます。

問合せ:市社会福祉協議会
【電話】992-5750

◆「前を向いて」みんなで歩んでいきましょう
角(かど)春美さん
認知症地域支援推進員(保健師)
認知症の人と家族を地域で支える「つなぎ役」として、令和7年度から介護保険課に専従として配置された保健師。

○勇気を出して話してみよう
認知症のことを自分や家族が周りに話すことは、少し勇気がいることかもしれません。「だまされたらどうしよう」「悪いことに巻き込まれたら困る」と心配になるのも、自然なことです。特にお金の管理などは、家族がしっかり見守る体制が必要です。
認知症のことをオープンにすることで協力してくれる人が増え、見守りの力が強くなります。実際に認知症のことを周りに話した人たちの多くが、「もっと早く話せばよかった」と感じています。
家族だけで悩みを抱えていた人も、認知症のことを周囲の人に話してみると「何かできることがあれば手伝うよ」「もっと早く教えてくれたらよかったのに」と、温かい言葉をかけてもらい、安心したそうです。
家族だけでなく地域や近所の人たちの支えもあると、認知症の人は安心して外に出られます。スーパーやコンビニなど、よく行く場所にあらかじめ認知症であることを伝えておけば、道に迷ったり、何をしに来たのか分からなくなったりしたときに周りの人が助けてくれます。
まずは、信頼できる人に話してみることから始めてみてください。あなたらしさは、変わらない
認知症は「暮らしの中で困ることが増える状態」と言われています。でも、私たちの暮らしは、人とのつながりで支えられています。認知症があっても、社会の中で活動を続けることは、誰かの暮らしを支えることにもつながります。
認知症はある日突然なるものではありませんし、すぐに何もできなくなるわけでもありません。できないことが増えても、できることもたくさん残っています。認知症になっても、あなたはあなたのままです。全ての人にとってやさしいまちへ
これからの社会は、人口が減っていくことで、今まで当たり前にできていたことが難しくなるかもしれません。だからこそ、認知症の人の「まだできる力」を生かすことも大切です。認知症になっても、社会の中で果たせる役割が実にたくさんあるという認識を広げていきたいです。
お互いに声を掛け合い、助け合えるまちは、認知症の人だけでなく、全ての人にとってやさしいまちになります。認知症を特別なものとせず、暮らしに困っている人みんなにやさしい社会を目指して、「前を向いて」みんなで歩んでいきましょう。

◆高齢者が安心して社会とつながれる体制
徘徊(はいかい)高齢者等見守りネットワーク事業
認知症やその他の理由により徘徊(はいかい)の恐れのある高齢者、障害により徘徊(はいかい)の恐れのある人の情報を、親族や後見人などの申請で市に事前に登録できます。登録者が行方不明になった場合には警察や消防などと連携し、早期発見する体制を整えています。

問合せ:総合福祉課
【電話】995-1882