健康 病院だより(1)

■帯状疱疹(ほうしん)予防接種についてシリーズ4回目(最終回)〜公立森町病院予防接種外来担当水野義仁〜
疱疹とは、医学用語で、小水疱(すいほう)または膿疱(のうほう)が集簇(しゅうぞく)した状態のことを意味します。(内容物が透明の場合を水疱、帯白色(たいはくしょく)のものを膿疱と言います)水痘が治ったあとに水痘帯状疱疹ウイルス(以下、ウイルス)は、かなり長期間、脊髄の神経節の中で生き残っているということが前回のお話です。そして、大切なことは、体の免疫の仕組みがウイルスをおとなしくさせているということです。
何らかの理由で体の免疫の力が弱くなった時、ウイルスは増殖し、神経の細胞体から軸索(じくさく)へ出てきます。皮膚に辿り着いたウイルスは軸索を破壊し、皮膚の細胞内に入ります。細胞内での増殖→細胞を破壊→周囲の細胞内へ・・・と病巣が広がっていきます。体の免疫を司る細胞も集まってきて、激しい戦闘状態となります。皮膚の細胞は巻き添えとなり、さらに破壊されていくことになります。その時に、感覚神経も巻き添えとなり、破壊され、後の神経痛の遠因となると言われています。

□帯状疱疹の予防法について
(1)皆さまは既にお気づきのことと思いますが、帯状疱疹の最善の予防法は水痘帯状疱疹ウイルスを体の中に入れないこと。つまり、水痘に罹(かか)らないことです。1歳児への水痘ワクチンの定期接種によって、水痘に罹らずに大人になった人は体の中にウイルスがいませんので、帯状疱疹になることはありません。
(2)しかし、水痘ワクチンを接種したことがない人の大半はすでに水痘に感染しています。神経節の神経細胞内に“住んでいる”ウイルスを消滅させてしまう薬が開発されれば、帯状疱疹は怖い病気ではなくなります。これが次善の予防法です。しかし、残念ながら現時点では、そのような薬はありません。現在、水痘や帯状疱疹の飲み薬や点滴の“治療薬”はありますが、作用機序はウイルスDNAの複製を阻害することです。ウイルスの増殖を止める薬ですが、ウイルスを消滅させてしまう力はありません。
(3)ウイルスを大人しくさせている免疫の力の詳細を知ることができれば、次々善の予防法となりえます。免疫を司る細胞がどのような物質を作用させてウイルスを大人しくさせているのか…。現在もIPS細胞などを用いた研究が続いています。
いつか上記のうちのどれかが実用化される日が来ることが期待されます。しかし、その日までのんびり待つわけにはいきません。いつウイルスが目覚めるか、予測ができないからです。
現在、使える手段は、ウイルスに対する免疫力の維持です。ウイルスの増殖を阻止するに足る免疫力を維持する目的で使用するのが、今年4月から定期接種となった予防接種です。ワクチンは現在2種類あります。1つはウイルスの生ワクチンです。水痘に再度かかることで、免疫の仕組みに刺激を与え、免疫力のアップを図ります。もう1つはウイルスの表面で量的に最も多く発現している糖とう蛋たんぱく白を体に接種する方法です。それぞれに利点・欠点があります。詳細については別の機会に譲ることにします。
体の中のウイルスを消滅させてしまうような強力な予防策ではありませんが、有効性は確認されています。定期接種となったことを期に、多くの方々が帯状疱疹と帯状疱疹ワクチンについて、興味・関心を持ち、ひとりでも多くの方が接種していただくことを願って、筆を置きたいと思います。

出典:
写真(本紙14ページ)…皮膚病アトラス 第4版 西山茂夫・著文光堂
図(本紙14ページ)…脳神経ペディア 羊土社 渡辺雅彦・著(一部改変)

問合せ:公立森町病院
【電話】85-2181