文化 金剛峯寺~伝統建築と火災への備え~

日本仏教の聖地「金剛峯寺」のお坊さんのおはなし

金剛峯寺の屋根は、「檜皮葺(ひわだぶ)き」という日本の伝統的な工法で葺かれています。これは、檜(ひのき)の樹皮を丁寧に何重にも重ねて施工する屋根の葺き方で、主に寺社仏閣などの格式ある建物に用いられてきました。また檜皮葺きは、見た目の美しさだけではなく、通気性や耐久性にも優れており、長い年月にわたって日本の建築文化を支えてきました。この伝統技術は、2020年(令和2年)に「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」の一部として、ユネスコ無形文化遺産に登録されています。
高野山は、標高およそ800メートルの山上盆地に位置し、水が豊富で、地盤も非常に堅固であるため、地震による被害は比較的少なかったといわれていえますが、その一方で、長い歴史の中では落雷などによる火災がたびたび発生し、木造建築が被害を受けることも少なくありませんでした。
こうした背景の中で、金剛峯寺では昔から独自の防火対策が施されてきました。その代表的なもののひとつが、「天水桶(てんすいおけ)」です。これは、屋根の上に設けられた大きな桶で、雨水を溜めておくためのものです。火災が発生した際には、梯子や鎖を使って屋根に上がり、桶に溜まった水をまいて屋根を濡らし、火が燃え広がるのを防ぐという仕組みでした。このように、延焼を防ぐための工夫は、当時の限られた設備や材料の中で生み出された、非常に実用的かつ知恵に満ちた対策であったことがわかります。
現代では、多くの寺院において近代的な消防施設(消火栓やスプリンクラーなど)が設備されているため、「天水桶」のような伝統的な防火設備はほとんど見られなくなりました。しかし、金剛峯寺では今なお、その姿を残しており、当時の防火対策の知恵を現代に伝えています。
ご参拝の際は、ぜひ屋根の上にも注目してみてください。歴史ある伝統建築とともに、そこには先人たちの工夫と努力の跡が息づいております。

問合せ:高野山真言宗 総本山 金剛峯寺
【電話】0736-56-2012