くらし 【トーク企画】市長としゃべらんで Vol.21(1)

「市長としゃべらんで」第21回目の今回は、映画監督の白羽弥仁(しらは・みつひと)さんと原井市長とのトークセッションの模様をお伝えします。白羽監督は、吉野川市と板野町を舞台とした最新作『道草キッチン』を手がけた映像作家であり、地域や日常を丁寧に描く作品で高い評価を受けています。

■映画「道草キッチン」白羽弥仁監督×原井敬市長
▽映画監督・白羽弥仁の歩み
市長:本日はお越しいただきありがとうございます。まずは監督の自己紹介をお願いいたします。
白羽:最初の劇場映画を制作したのは1993年ですので、もう32年前になります。それ以来ずっと映画を作り続けてきました。
出身は日本大学藝術学部です。全国から映画や演劇を志す学生が集まる学校で、私自身も高校生の頃から映画の道を考えていました。
東京の制作会社では長くライターを務め、いわゆる「プロットライター※1」として物語の核を考え、企画を数多く立てていました。私にとっては修行の時期でした。
現在は大手前大学の非常勤講師としても活動しています。2009年に教え始め、今の大学で3校目です。この15、16年で映像を取り巻く環境は大きく変わりました。以前は編集の仕方を一から教える必要がありましたが、いまの学生はスキルをすでに持っています。YouTube(ユーチューブ)のサムネイル※2一つを取っても完成度が高い。昔は人物の撮り方が分からず花や犬ばかり撮っていた学生も、いまはインスタ※3で自撮りが当たり前です。選挙広報も含めて、拡散が前提の時代になりました。良し悪しは別として、環境の変化を実感しています。
市長:なるほど。今の若い世代は、最初からSNSに触れて育っていますからね。映画の道を志した〝決定的なきっかけ〟は何かあったのでしょうか。
白羽:単純に映画が好きだったんです。中学生の頃は映画館に入り浸っていました。
当時は撮影所に入って助監督から始めるのが王道でしたが、ちょうど学生の自主制作映画からプロになる人が現れ始めた時期でもありました。「自分にもできるかもしれない」と思った全国の映画好き学生の一人が、私でした。
昔は8mmフィルムを切ってつなぐところから始めていました。今で言えば、個人で制作するYouTuber(ユーチューバー)に近い感覚でした。
市長:フィルムをつなぐところからのスタートとは驚きです。映画づくりの原点を感じますね。

▽吉野川市から生まれた物語
市長:本作に込めた思いをお聞かせください。
白羽:今回の作品『道草キッチン』は原作ものではなく、まず吉野川市のさまざまな方にお話をうかがうことから始めました。移住して店を営む方、日本語ボランティアの方、そうした出会いから物語を組み立てました。
強く感じたのは「多文化共生」というテーマです。地方でも外国の方と共に暮らすことは、今後の大きな課題であり魅力でもあります。これまでの作品でも扱ってきましたが、今回はこの街の日常に根づいた、楽しく暮らす姿を描きたいと思いました。
映画全体のイメージは、風や水、自然を感じる〝スローライフ〟に近いものです。ゆったりとした空気の中で人が暮らす感覚を映したいと考えました。現代の映像メディアは〝目を引く刺激〟に寄っていますが、劇場映画はSNSと同じ土俵には立てません。だからこそ、あえて真逆を目指しました。
食の描写にもこだわりました。鍵は「湯気」です。湯気は映像に写りにくいのですが、角度や光の入り方に工夫して撮影しました。
市長:映画を拝見して、最初に抱いた印象は「とにかく美味しそう」でした。湯気まで意識されていると知ると、あの食卓の場面もまた違って見えてきますね。