くらし [特集]語りべ(2)

◆モノとヒト
◇怪我をしていなければ 堂脇忠男さん
「これは父から手渡された軍隊手帳です」父である堂脇三郎さんの遺影を見ながら話し始めた忠男さん。「戦争を語ることを避けていた父が、生前私たち家族に唯一教えてくれた戦争の話があります。父は飛行隊で、戦時中は全国各地を飛び回っていました。そして戦況が苦しくなってきた時、特攻の話が。しかし、父はその時足を怪我しており、上司から順番を後に回すと言われたそうです。父の代わりの人が飛び立った数日後、終戦を迎えたということでした。父の代わりに飛び立った方が戻ってくることはなかったようです。父が怪我をせず飛び立っていれば、私はこの世に生を受けることはありませんでした。命をつないでくれた父に感謝していますが、もし父が飛び立っていれば、別の命が生かされたのも事実です。父は複雑な心境だったことが容易に想像できます。この話を思い出すたびに胸が締め付けられます。人の命は尊い。戦争がこの世界からなくなることを願っています。」

◇親の戦争、子の戦争 隈﨑勝也さん
「父は死線を乗り越えてきましたが、それは私たちも同じです」沖縄戦中、県警の要職として県知事と行動を共にしていた隈﨑俊武さん。子の勝也さんたち家族は、国の政策で疎開し出水での生活が始まった。「多くの仲間や県民が目の前で亡くなっていく状況を見ていた父の心情は、想像を絶する辛いものだったと思います。しかし、その頃私たち家族の生活も辛かった。身につけているものは全てお米に換えましたが、それでも足りなくなり、水でお腹を膨らませました。学校では、鹿児島の方言がわからないことで周りからのけ者にされました。辛く苦しかった記憶しか残っていません。」そして迎えた終戦の時。翌年父が出水に帰ってきた。「姉から父が帰ってきていると聞き、私はまず食べ物の心配をしました。父との再会を喜ぶよりも、自分の食いぶちがなくなることを心配するほど極限状態での生活でした。そして父は、教えてもらわなければわからないほど変わり果てた姿になっていました。戦争は当事者だけでなく、家族の人生も壊しました。」終戦から10年後、隈﨑家に1人の訪問者が来た。「県警時代の部下が、アーミーナイフを持ってきました。父が沖縄戦中使用していた相棒ともいえるナイフを当時部下に託したそうですが、はるばる沖縄から返しにきてくれたのです。戦争には様々な物語があります。今話した物語を、私は全て子へ話しました。父や私のような経験はしないでくれという願いを込めて。」

■語りべたちの想い
12年前から市内に残る戦争遺跡を活用した平和学習を行っている出水市平和学習ガイドの会。副会長の森さんに、8月1日開館する展示室について話を伺いました。「私たちはこれまで、子どもから大人まで、市内外問わず多くの方に出水が体験した戦争の歴史を伝えてきました。今回市の協力のもと、戦争資料を集めた『出水市「戦争の記憶」展示室』を新たに開館します。私たちの活動の集大成である、戦争体験者100名以上の証言が収められた『戦争体験談集』を活かしながら、戦争の悲惨さや平和の必要性をこれからも語り、訴え続けていきます。私たちはこの場所から、『未来の平和』を創っていきます。」

◇『出水市「戦争の記憶」展示室』
9:00~17:00[平日]※年末年始を除く
市老人福祉センター内
出水市平和学習ガイドの会 森浩伸さん

問合せ:出水市平和学習ガイドの会
【電話】080-6725-4243

■私たち全員が語りべ
戦後80年に合わせて、新たな戦争資料展示室の開館や企画展の開催など、例年以上に戦争に関するモノを見ることができます。モノから知ることができる情報は多くあります。しかし、モノにヒトの語り・対話が加わることで、戦争への理解はより深いものとなります。1年に1度だけで構いません。戦争遺跡などのモノを見ながら家族と話をしてみてください。戦争を体験していないからこそ、私たちが語ることで未来へ受け継がれていきます。今を生きる私たち全員が語りべです。

◇高尾野郷土館企画展『戦後80年・戦争とくらし展』
8/1(金)~8/31(日)9:00~18:00[8/15休館]

問合せ:高尾野図書館
【電話】82-5452

◇出水歴史民俗資料館企画展『戦後80年~兵隊さんが遺したもの~』
開催中~9/7(日)9:00~18:00[土日祝は17:00まで・8/18休館]

問合せ:出水歴史民俗資料館
【電話】63-0256