- 発行日 :
- 自治体名 : 岩手県矢巾町
- 広報紙名 : 広報やはば 令和7年9月号
認知症の前段階と考えられている「MCI※」という状態があります。本人、または家族や周囲の人が、早めに認知機能の違和感に気付き、適切な相談や治療につなげることで、症状の改善や進行の遅延が期待できるとされています。岩手医科大学の前田教授に早期発見・治療の大切さと認知症との向き合い方のポイントを聞きました。
※mild cognitive impairmentの略
A:大まかに、日常生活に支障があるか否か。MCIが進行すると認知症を発症する可能性があり、認知症の前段階と考えられます。
認知症は「認知機能障害」があって、それが原因で生活に支障をきたしている状態です。「認知機能」とは、人としての営みに必要な脳機能が含まれます。
主要な認知機能は記憶・見当識・言語機能・遂行機能・視空間機能です。認知症は、これらのどれかあるいは複数が障害されて、日常生活を営むことに支障をきたしている状態です。
一方、これらの認知機能が障害されていても、日常生活に全く支障がないこともあります。代表的な一例として記憶障害があります。記憶力は明らかに衰え「あれあれ」「それそれ」「これこれ」といった発言が多くなってきているものの、家事や仕事、日常的な買い物や言づてなどは一人で全く問題がなくできる場合はよくあります。これをMCI「軽度認知障害」の状態であるといいます。
A:認知症は包括的な生活改善で予防につながる可能性があり、MCIは特に抑うつ、睡眠障害、甲状腺機能低下症など、背景にある原因疾患の治療で改善する可能性があります。
FINGER研究(2015年発表・フィンランド)では、MCIを含む認知症の高リスク高齢者を対象に2年間の生活介入を実施。認知機能訓練、生活習慣病などの脳血管疾患リスクの管理を包括的に行った群で、認知機能全般が有意に改善し、特に注意力や遂行機能の改善が報告されています。他にも複数、同様の研究成果の報告があります。
近年ではMCIまたは認知症でも、まだ軽度な状態にある場合には、投薬により認知機能の悪化を27%有意に抑制することなどが確認されています。さらに、MCIと診断された人のうち、約10~20%は1~3年で正常レベルに回復したという報告もあります。
A:MCIは認知機能障害の分岐路です。この状態で早期に発見・予防的な取り組みを開始すれば、進行を抑制・遅延できる可能性があります。
MCIは認知症の前段階ですが「全員が認知症になる訳ではない」ことが明らかにされています。抑制できればベストですが、現在は完全に抑制することができません。
一方、遅延させることで、生活の質を保ちつつ将来の治療選択肢を広げられることが期待されます。MCIは「一定の割合で正常な認知機能に回復する」ことも分かっています。
優先すべき3本柱は「運動」「栄養」「交流」。例えば…
・週に数日、30分以上のウォーキング、サイクリング、筋力トレーニング
・野菜は1日1皿を2皿、白米は雑穀ごはんや全粒パンに一部置き換える
・一方、肉類、バター、菓子類、加工食品は控えめに
・会話や趣味の活動、地域活動への参加
・人と話す、笑う、考える
※社会的に孤立している高齢者は発症リスクが2倍とされています。
(1)否定しないこと…責めずに共感と安心を最優先に。「あなたのせいではない」と伝わる言動をとることが大切です。
(2)孤立させないこと…一緒に取り組もうという姿勢で。単なる声かけでも抵抗感が和らぎ連帯感が形成されます。
(3)受診に結びつけること…極端な病気扱いを避けること。この先も健康に年をとるために脳のことを相談しようという雰囲気で。無理強いすることは何も好転しません。
加齢による[もの忘れ]
・体験の一部を忘れる
・何を食べたか忘れる
・日付や曜日、場所などを間違える
・約束をうっかり忘れる
・忘れたことを自覚している
・日常生活に支障はない
・ヒントがあると思い出せる
認知症による[もの忘れ]
・体験の全部を忘れる
・食べたこと自体を忘れる
・日付や場所などが分からなくなる
・約束したこと自体を忘れる
・忘れたことが分からない
・日常生活に支障がある
・ヒントがあっても思い出せない
●お近くの「もの忘れ外来」
もの忘れ外来は、脳神経内科が開催していることが一般的です。認知症専門医による診療が行われ、認知機能はもとより神経疾患の鑑別診断が、神経診察や神経心理検査、画像検査などで行われます。
地域の脳神経内科を掲げるクリニックや医院では、もの忘れ診療を積極的に行っています。「MCIかな?」と思ったら、受診を検討してください。
●矢巾町地域包括支援センター
【電話】019-697-5570(繋がらない場合は【電話】019-611-2855)
保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門職のほか、認知症地域支援推進員が常駐していて、本人、家族、ご近所さん、民生委員など、誰でも相談が可能です。
●基幹型認知症疾患医療センター(岩手医科大学附属病院)
【電話】019-652-7411
MCIか認知症か、アルツハイマー病かそれ以外の神経疾患かなどの精密な鑑別診断を担います。地域全体の認知症医療連携の推進や、医療機関や福祉機関への研修支援なども行う、地域医療の中核施設です。