くらし 奏であう人 ボリューム84

撮影場所:株式会社ケンランド(山形市)

キーワード:作って終わりではないものづくりを
リネンニットの可能性を広げる大沼秀一さんと、宮城興業(株)を率いて革靴のあり方を探る荒井弘史さんに、ものづくりへの思いや大切にしている価値観についてお聞きしました。

■荒井弘史(あらいひろし)さん
1972年茨城県生まれ。宮城興業株式会社(南陽市)代表取締役社長。山形大学在学中に同社研修生第一号となり、契約社員を経て、25歳の時に正社員になる。十数年の現場経験後、「荒井弘史靴研究所」を立ち上げ独立。独立後は宮城興業株式会社外部役員を数年務めた後、2024年3月からは同社の社長に就任。現在は両社を経営する。

写真キャプション:足袋や草履など日本の履物の形を備え、かつ日本の革を使った新ブランドArthful(アースフル)は、宮城興業株式会社が培ってきた技を、地産地創で結ぶライン。国産の革を使用し、修理を前提とした設計を施しているため、長年に渡り履き続けることができる。

■大沼秀一(おおぬましゅういち)さん
1950年山形市生まれ。株式会社ケンランド(山形市)代表取締役社長。2010年、リネンのニットをメインとした自社商品ブランド「ケンランドリネン」を設立し、国内外からの評価を受け、ヨーロッパリネン連盟から日本で初めての認定を取得。現在は素材選びから製造・販売まで一貫したものづくりを通じ、持続可能で自由なニットづくりに挑み続ける。

写真キャプション:本社敷地内にあるコンセプトショップでは、靴下やタオルなどの小物を中心に、シャツやストールなど幅広いアイテムを販売。夏に涼しく冬にあたたかい、また抗菌作用があり、使い込むほどに味わいが増すリネンの性能美を追求し、快適な暮らしのアイテムとして提案している。

▽くらしに寄り添う使い心地のよい製品づくり
「作って終わりではなく、売るところまでが自分に課せられた仕事です」。そう話すのは、山形市でリネンニットづくりに取り組む大沼さん。OEM(注釈)中心だった時代を経て、自社ブランド100パーセントでの道を選び、フランスの原料畑でのセレクトから染色、編み立て、仕上げ、販売までを自分たちの手で一貫する体制へと切り替えました。
「百貨店や催事の売り場に立ち、お客さまの声を聞くと、次に届けるべきものがはっきりと見えてきます。」と大沼さんは言います。
一方、南陽市で革靴作りに携わる荒井さん。大学在学中に宮城興業(株)と出会い、靴作りを学んだのちに独立。その後、宮城興業(株)の代表取締役社長へと就任し、現在は東京と南陽市の二拠点で活躍しています。
「グッドイヤーウェルト製法という、底をしっかり縫いつける丈夫な作り方で靴を仕上げているため、修理しながら長く履けます。採寸と調整を基に、その人の暮らしに合わせた靴を作っています」。

▽生活を通して、実感してもらう山形の技術を、日々の暮らしへ
「リネンは洗うたびに風合いが増し、乾きやすく匂いが残らず、肌に近い場所でこそ力を発揮します。靴の中敷に使えば、素足でも蒸れにくく、水洗いもできます。」と大沼さんが話します。
荒井さんは大沼さんが作った中敷きを手に取りながら応えます。
「日本には草履や下駄の文化があります。その素足の感覚を、革で表現したい。革靴は本来、蒸れにくく、快適にたくさん歩けます。フォーマルな場での『我慢して履くもの』というイメージを、根本から変えていきたいのです」。
採寸の場では足の癖や歩き方、どのような場面で使用するかを丁寧に聞き取り、より快適な歩行を手助けしていますと続けます。

▽顧客の声を形にする長く愛されるものづくり
「お客さまの声は宝です。各地で販売するスタッフが聞いた声をもとに、点だったアイデアが、面になることも多々あります。」と、大沼さんは微笑みます。
荒井さんがうなずきながら応えます。
「自身の一部になった愛着のある靴は、いくら費用がかかっても直したいと言われます。だからこそ長く使える設計を考え、私たちの靴作りの新たな第一歩を築けたらと思います。」と話します。

▽使い続けるほどに心に馴染む温もりと豊かさを育もう
「製品を必要な人に届けることが、私の誇り。リネンの手ざわりと体感を、その場でお伝えします。」と大沼さん。荒井さんもうなずきます。
「足に合う靴は、暮らしを変えてくれます。直しながら履き続けることで、かけがえのない一足になってくれるはずです」。
二人の言葉には、自社製品への思いと、顧客に長く愛用してもらいたいという思いが溢れていました。