- 発行日 :
- 自治体名 : 埼玉県北本市
- 広報紙名 : 広報きたもと 令和7年10月号
■雑木林と農家さんの暮し
~19代続く「いとうふぁーむ」さんの話~
かつての雑木林は、枝は薪や炭に、落ち葉はたい肥にするために農家さんが保全・更新をしてきました。現在も雑木林を所有し、昔ながらのやり方でさつまいも作りを続ける「いとうふあーむ」の伊藤治さん・わかこさんに、雑木林と農家さんの暮らし、雑木林への想いについて話を聞きました。
〔やりたいことがある時に、雑木林を大いに利用してほしいです。〕
――さつまいもの栽培に雑木林の落ち葉を活用しているそうですね。
治さん:近隣から引き受けた落ち葉をたい肥にして、さつまいもの苗床やトマト、きゅうり、なすにも使っています。腐葉土が入ると、水はけと水持ちがよくなるんです。
わかこさん:今のさつまいも畑も林を切り開いて作ったので、天然の腐葉土で育っている状態。土がふかふかで柔らかいんです。
治さん:梅林が手に負えなくなって畑にしたんだよね。さつまいも自体は50年以上前から栽培しています。雑木林も昔は自分たちで手入れをしていましたが、今は「北本雑木林の会」さんがしてくださっています。
◇雑木林は生活に密着してい
――昔は、どうやって雑木林の手入れをしていたのでしょうか。
治さん:私が子どものころは吉見町から燃料にするため枝を拾いに来る人がいました。落ち葉を集めてかごにつめて、私たち子どもが、かごの中でぐるぐる回りながら踏み込んでいくんです。この落ち葉をたい肥やかまどのたきつけにも使っていましたよ。
わかこさん:雑木林が生活に密着していたんですね。
治さん:だんだん管理が難しくなってきて、30年前、「北本雑木林の会」の白川さんたちが「子どもが遊べる林にしたい」と下草刈りをしてくれるようになったんです。会の皆さんがコンサートを開催したり、子どもたちがブランコなんかで遊ぶようになってにぎやかになりましたね。
――落ち葉はどうやってたい肥に?
治さん:米ぬかと混ぜてトラクターでひっくり返す「切り返し」をするんです。落ち葉が細かくなって混ざると微生物が動いて冬場でも湯気が上るくらい熱が出る。それを年2回やって、2年かけてたい肥ができます。2~3月にたい肥で苗床を作り、昨年のさつまを並べていくと芽が出てきて、4月後半~5月に成長した苗を切って、畑に挿していくんです。
わかこさん:8~9月に収穫を始めて、1~2か月寝かせるとでんぷんが糖化して、焼き芋にしたときにしっとりするんです。掘りたては、ほくほくしているので天ぷらやさつまいもご飯がおすすめですよ。
治さん:寝かせるときは、ムロ(土中の洞穴)にしまいます。横穴でかがまないといけないので、昔は子どもの仕事でしたね。
◇私たちも雑木林を残したい…
――北本も雑木林が減っています。
治さん:「雑木林があるから北本に引っ越してきた」という話も聞きます。私たちも雑木林を残したいんですが、相続税を考えると難しい…昔は、枝が燃料になるし、落ち葉が肥料になるしで、うまく循環していたんですが、化学肥料や生産性重視で変わってしまいましたね。
――雑木林を保全していくには、より多くの人に関わり、親しんでもらうことも必要でしょうか。
わかこさん:それで言うと、うちはさつまいも掘り体験を毎年やっています。子どもが土に触れて、作物を採って、その土の上で食べる。原始的な食体験ですよね。その後、裸足で畑の上でヨガをしたり、雑木林で遊んで楽しんでいたりします。持ち帰ったいもを美味しくなるまで寝かせて、子どもと一緒に食べた感想がお母さんから届いたときは嬉しかったですね。
――自然と関わる暮らしの中で、印象に残っていることはなんですか。
治さん:たい肥を入れて良い作物が採れたときは「ああよかったなあ」とつくづく思いますよね。
わかこさん:良い悪いじゃないですが、ものすごい嵐の夜に家族総出でトウモロコシ畑を守った場面は今でも思い出しますね。あとは、畑から見下ろす田んぼに夕日が沈んでいく景色が好きで…その話を友人たちにしたら、そこで楽器の演奏とかできたららいいよねって「縄文音楽祭」というイベントにつながったんですよ。
――今後、雑木林はどうなってほしいですか。
わかこさん:親子で虫の観察をしたり、直売所で買ったトマトジュースや焼き芋を隣の林で食べている姿を見かけて、いいなって思います。残したくても手放さなければいけない状況が、今後、法制度の改正等で変わっていってほしいです。
治さん:子どもたちが遊んだり、楽器の演奏とか、市民の皆さんがやりたいことがあるときに大いに利用してほしいです。
〔いとうふぁーむ〕
しっとりと甘いさつまいも「紅はるか」ほか、年間100種類以上の農作物を栽培。北本郵便局交差点のゲオ北本店駐車場の直売所には、採れたての作物が並ぶ。