くらし 〔特集〕これが私の里山ライフ(7)

■歩いて知る、北本の里山
◆私の里山ライフ 番外編
~もっと里山について知りたいあなたへ~
北本の里山は、歩いて回れる範囲に北本の地形・歴史や自然環境を体感できるスポットが集まっています。
里山を長年歩き続ける磯野治司さんに案内してもらい、実際に散策してみました。

〔市民リポーター 太田珠羅(じゅら)さん〕
社会人1年目の新人市民リポーター。誰もが立ち寄れる夜の居場所「夜な夜ならぼ」の開催など地域で活躍中。

〔里山案内人 磯野治司(はるじ)さん〕
文化財保護の市職員。地域の自然や歴史が大好きで、北本の里山の動植物や地形、歴史にとっても詳しい。

〔市民リポーター 岩崎夏実さん〕
現役大学生の新人市民リポーター。シェアキッチン「ケルン」を取材し、フリーペーパーを作るなど伝えることが好き。

最初に訪れたのは、高尾さくら公園近くの「阿弥陀堂」。川口市から鴻巣市まで広がる「大宮台地」に位置する北本市の最高地点が、ここにあるとのこと。布袋尊(ほていそん)像の近くの標石は標高32・8mを表しているそうです。
「ここには『小豆とぎ婆』の伝説が残っているんですよ」と磯野さん。阿弥陀堂の北側に谷があり、そこを流れる清水(しみず)の音が小豆を研ぐ音に似ていたことから、「小豆とぎ婆が出るぞ!」と言われていたとか。
荒川沿いの河岸場(かしば)跡に出ると、田んぼが広がる気持ちのいい景色。そこで、オニグルミやクズの花を観察しました。桶川方向に歩き続け、サンアメニティ北本キャンプフィールドに入ります。ここでは「カワセミ」をよく見かけるとのこと!
一息ついて、向かいの「高尾宮岡の景観地」の谷津(やつ)へ。谷津とは、湧き水が台地を浸食してできた谷の地形をいいます。宮岡の谷津は、谷底には湿地が広がり、斜面には雑木林が残されています。昔はこの湿地で田んぼが作られていたそう。
「北本には、この宮岡の谷津八重塚の谷津(現在は北本自然察公園)、北袋の谷津が残っす。谷が深くて幅が狭く、開発されにくかったため、今でも湧き水や湿地が残り、貴重な動植物の生息地になっているんです」と話す磯野さん。
宮岡の谷津をさらに進むと、高尾氷川神社・厳島神社・荒井須賀神社のパワースポットへ。厳島神社は階段を下ったところに社殿があり、その周りを囲んだ池に湧き水が流れ込んでいます。昔は荒川からウナギやナマズが上ってきたそうですよ。
最後は、北袋へ。愛宕(あたご)神社の境内を抜け、急な斜面を下ったところが「北袋の谷津」です。湿地が広がり、その周りを雑木林がとり囲みます。シオカラトンボやオニヤンマ、林に入るとクロコノマチョウなどの昆虫を見ることができ、流れている湧き水を覗くとメダカが泳いでいました。
「春には市内最大のエドヒガン(桜)が花を咲かせ、夏の夜にはヘイケボタルが乱舞しています」とのこと。西側の「くじらやま」と呼ばれる雑木林には野生動物がすんでいて、キツネやシカが目撃されています。まさに「北本最後の楽園」でした!

◇ここが北本の最高地点!〔阿弥陀堂〕
北本には源頼朝の弟である範頼とその妻・亀御前が暮らしていたという伝説があります。範頼が修善寺に幽閉され、その後亡くなったことを知った亀御前が悲嘆にくれて自害したことを地元の人たちが悼み、供養するために建てたと伝えられているのがこのお堂。ここには1,000基以上のお墓があり、市内最多。この高尾の地は、かつて河岸場として江戸への物資輸送の拠点となり、商人や職人が集住し、市内きっての町場として栄えていたそうです。
・阿弥陀堂から荒川に向かう道中、子連れのお稲荷様を見つけました。舟運で栄えたこの土地らしく、商売繁盛を願って祀られているようです。
・オニグルミの実を発見!北本の縄文人たちもクルミを食べていました。
・河岸場を取り仕切っていた「田島此右衛門(たじまこのえもん)」の名が刻んである標石を見つけました。

◇谷津の湿地や斜面林、豊かな湧き水を残す里山〔宮岡の谷津(高尾宮岡の景観地)〕
阿弥陀堂に次いで標高が高い台地を、谷津が深く浸食したことで形成された里山。斜面林や豊かな湧き水に恵まれ、希少な動植物の宝庫となっています。この環境を残すため、市民や企業等からの寄附をもとに県がこの土地を買い取り、「緑のトラスト保全地」として保全・管理されています。
・湿地に昔は田んぼが広がり、ツミ田という珍しい稲作が行われていたそうです。

◇北本のパワースポット〔高尾氷川神社・厳島神社・荒井須賀神社〕
旧高尾村と旧荒井村の境だったことから高尾氷川神社・荒井須賀神社が隣接しています。厳島神社には、江戸で弁財天を庭に祀っていた商人の中島屋久四郎が、夢枕に立った弁財天のお告げに導かれてこの地に祀ったという伝説が残されています。この三神社の東側には宮岡氷川神社前遺跡があり、通称「きたもっちゃん」土偶が出土しています。
・須賀神社は牛頭天王(ごずてんのう)を祀っています。天王様の紋がキュウリの切り口に似ているためにキュウリを「つくらない、食べない」という風習があったそうです。

◇北本最後の“楽園”〔北袋(きたぶくろ)の谷津(通称…とんぼ公園)〕
湿地を雑木林が囲み、奥には梅林を望む里山。休耕田が増えていくなか、地元住民が景観保全のために手入れをするようになり、その際に「とんぼ公園」と名づけられました。現在は、近隣の保育園が中心となって保全・管理を行っており、子どもたちの遊び場に使われ、有志の人たちが谷津田をつくっています。ここだけで多くのトンボやヘイケボタル、準絶滅危惧の「タコノアシ」「ミクリ」等の希少植物が自生しています。
※北袋の谷津は民有地のため、一般公開はされていません

◇里山歩きを終えて…
市の西側には、台地の谷津や荒川の河川敷といった里山空間が広がっています。里山は豊かな自然と歴史を今に伝える北本の財産です。ぜひ散策して、四季折々の素敵な景観や動植物との出会いを楽しんでほしいです。(磯野治司さん)

湧き水が冷たくて気持ちよかったのが一番印象に残りました!人の手が入らないと環境が変わってしまうことも初めて知りました。いろんな人が自然に興味を持ってくれたらいいなと思います。(太田珠羅さん)

北本駅の周辺と全然違う環境でびっくりしました!知らないと入っていいのかわからないような場所も入ることができて新鮮でした。「小豆とぎ婆」の話が面白かったです!(岩崎夏実さん)