くらし 〈連載〉誠実 信頼 希望 〔加藤 憲一〕

◆「生存」の基盤確保を

昨年から食品価格の高騰傾向が続いています。特に、日本人の主食であるコメは、昨秋の新米出荷によっても価格の高騰は一段落せず、先行きの品薄感は強まっており、政府は備蓄米放出に踏み切りました。
コメ価格の高止まりにはさまざまな要素が影響していると思いますが、根本的な原因は、やはり我が国のコメの生産力の低下です。その背景には、高齢化と離農、後継者不在による、農家の急激な減少という極めて厳しい現実があります。「コメ農家の所得は時給10円。コメを作っても全く利益にならない」と、知人の篤農家は嘆いています。

コメの価格については、需給バランスの中で適正化し、これまで安すぎた価格が農家にとっても適切な水準へと落ち着くものと思いますが、深刻なのは農家の減少と、農地の荒廃です。かつては日本も食料自給率は十分に高かったのですが、経済成長に伴い都市化が進展。食料はお金を出せば世界中から買うことができる状況に安住したため、国内農業の持続可能性は十分に顧みられず、気が付けば食料自給率38パーセント、回復しようにも農家の担い手が居ない、というのが現実です。

地球規模の気候変動がもたらす栽培可能作物の変化、政情不安による国際的な食料流通の不安定化を考えれば、食料、なかんずくコメについては、十分に農地を確保し、担い手を育て、それを支える地域の消費文化を育てなければなりません。コメだけでなく、主要な食料は可能な限り近隣地域で、最悪でも国内で賄える体制を、急ぎ目指す必要があります。

小田原市内の経営耕地面積は2015年から20年にかけて1073ヘクタールから871ヘクタールにまで減少し、さらに遊休農地は200ヘクタール近くに上るなど、その深刻さは増しています。専業で頑張っている農家の高齢化も著しく、向こう3年から5年のうちに一気に減るでしょう。現在耕作されている農地を守り受け継ぐことはもちろんとして、放棄された農地にも手を入れて、再び生産の場に戻す。農家の生産物を買い支えるとともに、市民も農に携わり、地域の食と農を守る。私たちの「生存」の基盤である「農」の確保に、今こそ意識を向けねばなりません。それは、地域の経済力強化、生活環境の魅力向上、そして子どもたちにとっての豊かな原風景づくりにもつながっていくのです。