- 発行日 :
- 自治体名 : 神奈川県小田原市
- 広報紙名 : 広報小田原 令和7年11月号 第1279号
◆海中の森の再生へ
小田原の多彩な自然環境の代表格であり、豊かな食文化と地域経済の活力の源でもあるのが、海。小田原のアイデンティティーの根源には、太古よりこの地に恵みをもたらしてきた海の存在があります。一方、日常的に海を眺めはするものの、海の中については誰もが気軽に入ることができないため、その様子を直接目にする機会はほとんどありません。
小田原の海の豊かさは、幾つもの要素によってつくられています。沖を行き交う親潮・黒潮がすぐ近くまで入り込める、日本三大深湾といわれる海底地形。箱根外輪山から海中に湧き出している真水。酒匂川・早川・久野川などからもたらされる山のミネラル。加えて、大きな役割を果たしていたのは、早川以南の岩礁地帯にビッシリと茂っていた海藻の森。いわゆる「藻場」の存在です。
過日、この「藻場」の、以前の様子と現状について、地元の漁師さんたちから詳しくお話を伺う機会がありました。いわく「石橋から江之浦にかけての海底には豊かな海の森が広がっており、ホンダワラやテングサがふんだんに自生していた。そこがさまざまな海の生き物たちの『ゆりかご』のような場所となって、魚たちはもちろん、アワビやサザエも多く生息していた。それが、現在ではすっかり変わり、藻場はほとんど消失『磯焼け』といわれる状況になっている」とのこと。
原因には幾つかの要素がありますが、大きかったのは令和元年の台風第19号で、藻場を形成していた海藻類が根こそぎとなってしまったこと。わずかに残った藻もブダイやムラサキウニなどの食害生物によって食べられ、再び繁殖することができずにいます。
現在、藻場の再生に向けては、漁業者やダイビングスクール経営者などの皆さんが力を合わせ、藻場礁の設置や、ブダイなどの食害生物の駆除など、懸命な取り組みが進められています。
これ以外にも大きな環境変化として、地球温暖化に伴う海水温上昇により海藻類が育ちにくくなっていることなども、藻場の再生を妨げる要因といわれています。
陸上に暮らす私たちが直接的にできることは限られていますが、こうした「海の中」の様子に思いを致しつつ、環境改善や再生活動への協力を進めていきたいものです。
