- 発行日 :
- 自治体名 : 静岡県森町
- 広報紙名 : 広報もりまち 令和7年8月号
■帯状疱疹予防接種について シリーズ3回目 〜公立森町病院 予防接種外来担当 水野義仁〜
今回は水痘(すいとう)(水ぼうそうという言葉も使います)のお話です。帯状疱疹の話題に、なぜ水痘?と不思議に感じる方もいらっしゃると思います。
水痘は、現代でも、子どもたちが罹(かか)るよくある病気の1つです。皆さまも子どもの頃に罹ったはずです。水痘の原因ウイルスは水痘帯状疱疹ウイルスです。感染経路は、患者の咳やくしゃみに含まれるウイルスを吸い込むことによる感染(飛沫感染・空気感染)です。皮膚にできた水すいほう疱から感染すること(接触感染)もあります。極めて小さいので目で見えませんし、足跡も残さないので、感染経路の特定は難しいです。感染力はコロナを遙かに上回り、麻しんに匹敵すると言われています。
水痘に罹患(りかん)した人と接すると、飛沫感染・空気感染によって上気道粘膜にウイルスが吸着します。詳細な説明は専門書に譲るとして、簡単にまとめると、血液の流れに乗り、全身にひろがります。さらに血管から皮膚へ移動し、皮膚の細胞に感染します。感染した皮膚の細胞は増殖したウイルスにより破壊され、周辺の皮膚の細胞に感染が広がります。周辺の細胞もウイルスにより破壊され、浸出液がたまり水痘に特徴的な水疱を形成します(図1)。この水疱の中にはウイルスがたくさんいます。水疱の表面の皮膚は薄く、すぐ破れてしまいます。
破れた水疱にはかさぶた(専門用語で痂皮(かひ)と言います)ができます。すべての水疱がかさぶたとなると、水痘は“治癒した”と判定されて、登園・登校がOKとなります。かぜやインフルエンザであれば、『これにて一件落着』となりますが、水痘はそうではありません。ここから、第二幕が始まります。
皮膚にできた水疱の周辺には、もともと痛覚・触覚・温度覚の神経が網の目のように張り巡らされています(図2)。これらの神経の中にウイルスは入り込み、細胞体まで辿り着きます(図3)。その細胞体の中で水痘帯状疱疹ウイルスは安穏(あんのん)と生き続けます。その細胞体は、背骨の中にある脊髄のすぐそばにある神経節にあります(図4)。つまり、この神経節にある神経細胞の中で水痘帯状疱疹ウイルスは長期間生き続けています。(顔と頭については三叉(さんさ)神経核の神経細胞の中にいます。)
この神経節・神経核の中の細胞に潜んでいるウイルスが、ある日突然増え始め、軸索(じくさく)を通り、皮膚の細胞に感染し、皮膚の細胞を破壊する状況が帯状疱疹です。
このウイルスを大人しくさせているのが免疫という仕組みです。免疫の力が衰えるような状況になると、細胞の中に潜んでいたウイルスが活動を開始します。
賢明な皆さまは、もう気がつかれたと思いますが、水痘に罹って“治った”人は誰でも帯状疱疹になる危険性があります。『80歳を過ぎたら3人に1人』どころではありません。老いも若きも、いついかなる時であっても帯状疱疹に罹ることは、何の不思議もないのです。
このことを踏まえて、次回は帯状疱疹の予防策のお話です。
*図1~4は、本紙14ページをご覧ください。