くらし 【特集】閉ざされた扉の向こうに~ひきこもりを知り、つながる社会へ~(1)
- 1/44
- 次の記事
- 発行日 :
- 自治体名 : 兵庫県宝塚市
- 広報紙名 : 広報たからづか 2025年10月号No.1340
ひきこもりと聞いて、あなたはどのような状況を思い浮かべますか。
自分がそうなったとき、周りの人がそうなったとき、どんな支えが必要でしょうか。
ひきこもりは特別な誰かの話ではなく、ある日、あなた自身や身近な人に起こることかもしれません。元当事者や家族の声を通して、自分ごととして考えてみませんか。
■ひきこもりってどんな状態?
学校や仕事に行かず、家族以外の人との交流をほとんどせずに自宅にとどまり続けている状態を指します。
「自室にこもり家族ともほとんど交流しない」、「家族と交流するが家からは出ない」、「趣味や用事で外出する」、「近所のコンビニには出かける」など、人によって状態はさまざまです。
■ひきこもりって他人事?
ひきこもりと聞くと、つい自分には関係のない話だと思いがちではないでしょうか。
しかし、国の調査によると、全国に約146万人(15~64歳)※いるとされ、50人に1人がひきこもりの状態です。
つまり、誰にでも起こり得ることで、みんなで考えるべき問題なのです。
※出典…「こども家庭庁 こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)」
■後藤さんの場合
◆10年間のひきこもりから社会復帰へ―私の29歳の再出発
後藤さん(仮名)30代男性/元当事者
◇19歳、心がついていけなくなった日
高校卒業後、専門学校への進学を希望していましたが、家庭の事情でかなわず、就職することになりました。ですが、仕事が始まると、働く環境の過酷さや、楽しそうに大学生活を送る友人の姿に、自分の気持ちがついていけませんでした。
そして、日々の違和感や疲労が積み重なり、19歳のある日、仕事を辞めて実家に戻り、ひきこもるようになりました。
◇毎日「消えたい」と思っていた
友人との接点は徐々になくなり、家族以外とは会わない日が続きました。「このままではいけない」と思いながらも、行動に移すことができず、毎日「消えたい」と思っていました。
そんな中、ある出会いによって、私はひきこもりをやめることができました。29歳のことでした。
◇支援員との出会い不安から安心へ
私の様子を気にかけてくれていた兄の引き合わせにより、せいかつ応援センター(※1)の支援員さんと会うことになりました。最初は不安であまり気乗りしていませんでしたが、親身に寄り添ってくれる支援員さんが1年以上かけて話す機会を作ってくれたことで、少しずつ自分の思いを伝えられるようになりました。
◇一歩ずつ広がる社会とのつながり
その後、ボランティアや「いろり(※2)」に参加することで自信がつき、少しずつ社会とのつながりもできました。そこでの仲間と、一緒にごはんを食べることもありました。これらの経験をきっかけに、企業に就職し、今に至ります。
振り返ると、いきなり就職するのではなく、アルバイトや軽作業など段階を踏んだことが、とても良かったと感じています。
◇早めの相談が踏み出す一歩に
自身の経験から言えることは、支援を受けることで、少しずつ外に出るきっかけが生まれるということです。少しでも悩みや不安があれば、早めに相談窓口を頼ることが大切だと思います。
※1…本紙4面参照
※2…生きづらさを抱える人が集い、内職的作業もできる市内の当事者グループ
■山口さんの場合
◆学校に行けなくなった息子―試行錯誤の先にあった家族の形
山口さん(仮名)50代女性/家族
◇高校入学から始まった不調
元々、息子は優しい子で親子喧嘩もほとんどなく、よく冗談を言い合うほど家族仲は良好でした。
高校入学後は、体育会系の部活に入部し、指名されて学級委員も務めることに。しかし、1カ月経った頃から、頭痛や腹痛を訴え、徐々に登校できなくなりました。
病院で検査も受けましたが原因は分からず、2年生になる頃にはほとんど学校に通えなくなり、3年生になると、ドアノブを何度もガチャガチャするなどの異常行動が見られるように。思いきって精神科を受診したところ、「強迫性障害」と診断されました。息子から詳細は聞けませんでしたが、人間関係や過労が原因だったと思います。
無理に学校に通わせようと、無意識のうちに息子を追い詰めていたのだと痛感しました。もっと早く息子に合った病院に連れて行けば…と今でも後悔しています。
◇支援員との出会いが転機に
高校在学中、先生の紹介で市が実施する教育相談に週一回、親子で通いました。その後、せいかつ応援センターにつなげてもらい、支援員さんと出会うことに。息子は最初「絶対会わない」と拒んでいましたが、ある日「一度会ってみる」と言ってくれました。実際に会うと、どんどん心を開き、自分から支援員さんとのやりとりを楽しげに話すように。2年ほどの面談を経て、「いろり」などの活動にも参加できるようになりました。
◇家族としての試行錯誤
息子の態度に、最初は正直イライラしてしまうこともありました。一度、怒りのあまり、ペットボトルを投げつけてしまったこともあります。でも、支援員さんから「無理に変えなくていい」と言われ、肩の荷が下り、「本心は横に置き、まず同調する」という接し方に変えることができました。それを続けるうちに、徐々に家庭内の緊張も和らいでいきました。
◇家族だけで悩まないで
同じように悩んでいるご家族がいれば、早めに専門家や支援機関に相談してほしいです。相談することで少しずつ道が開けると思います。
問合せ:せいかつ支援課
【電話】77・0651【FAX】77・2171
