文化 安芸高田歴史紀行

■シリーズ「博物館コレクション」第31回 千人針(せんにんばり) 歴史民俗博物館蔵
安芸高田市歴史民俗博物館 学芸員 古川 恵子

千人針とは、千人の女性が木綿の布に赤い糸で糸止めの玉を千個作ったもので、出征する兵士が身に着ければ敵の弾除けとなるというお守りのようなものでした。
玉止めで「必勝」「武運長久」「大和魂」といった文字をかたどったものや、「虎は千里往(い)って千里還(かえ)る」という故事に兵士の無事帰還への願いを重ね、虎の図柄に仕上げたものもあります。
また寅(とら)年の女性は強運と考えられていたようで、寅年の女性のみ年齢の数だけ玉止めができたようです。
日露戦争(1904〜1905年)ごろから始まったようですが、戦局が悪化すると千人の女性にお願いすることが難しくなったことや、赤い糸が手に入らなくなったため、作られなくなったようです。
写真の千人針は旭日の図柄に玉止めし「祈武運長久」と書かれています。中央に五銭と十銭の硬貨が縫い付けてあるのは、「死線(四銭)を超える」「苦戦(九銭)を超える」の願いが込められているためです。裏には中央に3cm×6cm程度の布が別に縫い付けてあり、その中には厚紙のようなものが入っています。千人針に付けることがあるお守りなのかもしれません。
この千人針は1943(昭和18)年、満州(現中国東北地域)で病いによって亡くなった兵士の遺留品として、遺骨とともに家族のもとに戻されたものです。
※写真は本紙をご確認ください。